研究課題/領域番号 |
16H05186
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
芦田 浩 千葉大学, 真菌医学研究センター, 特任准教授 (10535115)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 赤痢菌 / エフェクター / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
腸管病原細菌が粘膜感染を成立させるためには、菌と粘膜上皮との一連の相互作用が円滑に進行するとともに、その間に誘導される様々な生体防御反応と対峙する必要がある。生体は病原細菌の感染を早期に検知し、素早く免疫系を始めとする生体防御機構を誘導することで感染の拡大を防いでいる。感染初期に病原細菌の侵入を感知、増殖を阻止する自然免疫系とそれに続き誘導される獲得免疫系の発動は、菌の感染を効果的に阻止するために不可欠である。これに対し、腸管病原細菌の多くはIII型分泌装置と呼ばれる特殊なタンパク分泌装置を介して一連の病原因子(エフェクター)を感染時に宿主細胞に分泌し、細胞機能を菌にとって有利なものへと修飾する。この結果、病原菌は感染に伴い誘導される様々な生体防御機構を回避・抑制し、感染を成立させる。 腸管病原細菌である赤痢菌は細胞内に侵入し感染を拡大するのに対し、腸管病原性大腸菌は細胞内には侵入せず、細胞外に付着することで感染を持続する。このように感染様式の異なる赤痢菌と腸管病原性大腸菌であるが、相同性の高いエフェクターAを有している。エフェクターAの機能を解析したところ、エフェクターAは赤痢菌感染時のNF-κB活性化を抑制することを見出した。エフェクターAの宿主標的因子を探索するため、培養細胞にエフェクターAを発現させたところ、複数のNF-κBシグナル分子を標的とし、分解するプロテアーゼ活性を有することを明らかにした。さらに感染における役割を精査したところ、エフェクターAによる標的因子の分解は炎症性細胞死を制御し、感染持続に寄与することが明らかとなり、感染様式の異なる赤痢菌と腸管病原性大腸菌が類似のエフェクターを分泌し、同一の宿主標的因子をタンパク分解することで感染に伴う炎症および細胞死を抑制するといった感染戦略を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では赤痢菌感染をモデルとして、PAMPs、DAMP依存的に誘導される新たな生体防御反応に対抗する病原菌の感染戦略(炎症抑制、細胞死制御)を明らかにするとともに、感染様式の異なる他の腸管病原菌感染(サルモネラ、エルシニア、EPEC、コレラ菌)を横断的に解析し、その普遍的もしくは特異的な感染現象を解明することを目的とする。平成28年度は細胞内侵入細菌である赤痢菌と細胞外付着細菌である腸管病原性大腸菌が類似のエフェクターを分泌し、同一の宿主標的タンパクを攻撃することで感染に伴う炎症および細胞死を抑制することを明らかにした(論文投稿準備中)。平成28年度は感染様式の異なる腸管病原細菌が共通戦略により感染を拡大させていることを明らかにしたことからも、当初の予定通り順調に研究は進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は感染様式の異なる赤痢菌と腸管病原性大腸菌が類似エフェクターの働きにより炎症および細胞死を抑制することを明らかにした。今後は感染様式の異なる両病原体がどのような機構で同一の炎症および細胞死を誘導するのかを明らかにするため、PAMPsもしくはDAMPsの同定を試みる。さらに未だに明らかにされていない感染現象およびそれに対する病原細菌の戦略をサルモネラ、エルシニア、コレラ菌といった他の腸管病原細菌にまで拡大して研究を進める。
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