研究課題/領域番号 |
16H05190
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 哲也 九州大学, 医学研究院, 教授 (10173014)
|
研究分担者 |
大西 真 国立感染症研究所, 細菌第一部, 部長 (10233214)
秋庭 正人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 研究領域長 (60355211)
伊藤 武彦 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (90501106)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 微生物 / ゲノム解析 / 腸管出血性大腸菌 / 大腸菌O157 / 系統解析 |
研究実績の概要 |
(1)ウシ由来O157株の収集:前年度の糞便サンプルからのウシ由来菌株の分離では、分離頻度が極めて低かったため、家畜保健衛生所で既に分離されている菌株の収集を行い、1996年から2017年にかけて19都道府県で分離されたウシ由来株、計281株を収集できた。 (2)ヒト由来O157株とウシ由来O157株のゲノム解析:ヒト由来O157株に関しては、保存菌株の状態に対応して、解析対象を2005、2010、2015年分離株に変更した。2005年と2015年の分離株(872株と830株)のドラフト配列の取得は終了した。2010年分離株(653株)とウシ由来株についてはライブラリ作成までが終了し、シーケンサの順番待ちの状態である。 (3) ヒトおよびウシ由来O157株の高精度系統解析と比較ゲノム解析:2010年分離株の配列が取得できていないため、予備的な解析として、2005年と2015年の分離株のドラフト配列と参照配列(O157堺株)との比較解析を行い、O157のコアゲノム領域に存在する全SNPを同定した。これを用いて、高精度系統解析を行った結果、予備解析の結果ではあるが、我が国における優勢クローンの存在とそのターンオーバーが確認できた。 (4) Stx2産生量の測定とStx2ファージのサブタイピング:系統解析の最終的な結果がまだ得られていないため、各O157系統の代表株のStx2産生量のELISAによる定量と系統毎のStx2産生量の違いの検討、および2段階PCRを用いてStx2ファージのサブタイピングはまだ開始できていない。しかし、Stx2産生量の解析条件(誘発条件)に関して、これまでの方法に問題があることが明らかになったため、O157堺株などの腸管出血性大腸菌代表株を用いて、改めて条件検討を行い、新たな測定条件を設定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の点から、概ね順調であると判断する。 (1)大量配列解析のためのパイプライン構築に関しては、2005年と2015年ヒト分離株を使った予備解析で、大量データの解析でも、構築した解析パイプラインに問題が無いことを確認した。(2)ヒト集団事例感染事例株・ウシ感染実験由来株・実験室継代株の解析については、科研費の充足率によるコスト的な問題等から中止した。本解析の目的は補助的なデータの取得にあるため、本課題の主たる目的には影響は無い。(3)ウシ由来株の収集については、主な収集リソースとして想定していた糞便サンプルからの分離率が極めて頻度が低いことが判明したため、家畜保健衛生所等で既に分離されている菌株の収集を行うこと変更したが、1996年から2017年にかけて19都道府県で分離された株を、計281株を収集できた。ヒト由来株の収集については、保存菌株の状態から、解析対象を2005、2010、2015年分離株に変更した。(4)ゲノム解析に関しては、2005年と2015年のヒト分離株(872株と830株)のドラフト配列の取得は終了した。2010年ヒト分離株(653株)についてはコストの問題で一時中断したが、解析を再開し、ウシ由来株とともにライブラリ作成までが終了し、シーケンサの順番待ちの状態となった。(5)高精度系統解析と比較ゲノム解析に関しては、2005年と2015年のヒト分離株を用いた予備解析の結果ではあるが、我が国における優勢クローンの存在とそのturnoverが確認された。(6)各O157系統の代表株を用いたStx2産生量の定量、系統毎のStx2産生量の違いの検討、Stx2ファージのサブタイピングはまだ開始できていないが、改めてStx2産生量の解析条件を検討し、今後の基盤となる新たな測定条件を設定した。
|
今後の研究の推進方策 |
以下のように、基本的には当初の研究計画に沿って研究を進める。 (1)ゲノム情報の取得:2005、2015年分離のヒト由来株のドラフト配列は取得済みであり、2010年分離株とウシ由来株のドラフト配列を早期に取得する。(2)ヒト由来およびウシ由来株の高精度系統解析と比較ゲノム解析:2010年分離株とウシ由来株のドラフト配列が取得できた段階で、各株のドラフト配列と参照配列(O157堺株)との比較から、O157のコアゲノム領域に存在する全SNPを同定する。これを用いて、ヒト由来株(公共DBから取得できる海外株の配列を含む)とウシ由来株の高精度系統解析を行い、我が国における中・長期的なO157クローンの時間的・空間的な拡散様式、優勢クローンの同定、優勢クローンのturnover、ウシ常在系統とヒト優勢クローンとの関連性を解明する。次いで、BEAST解析による各系統の分離年代の推定から、優勢クローンの出現時期とヒトで優勢クローンとして確立するまでの期間を明らかにし、系統特異的遺伝子の同定、系統間あるいは系統内でのプロファージ・プラスミドの変化や入れ替わり、堺株で同定されている病原遺伝子の分布(の変化)を解析し、ヒト優勢系統特異的な遺伝的特性を同定する。また、主要IS(IS629)に関する自然界でのIS転移欠失等の基礎情報を取得し、優勢クローン出現に対するISの関与を明らかにする。(3) Stx2産生量とStx2ファージのサブタイプ解析:高精度系統解析が終了した段階で、主な系統から代表株を選択し、29年度に設定した測定条件を用いて、系統毎のStx2産生量を測定する。また、Stx2ファージのサブタイプを決定し、Stx2産生量との関連を解明する。(4) 疫学情報との統合解析:最終段階では、ヒト由来株の患者情報等と菌株の系統情報等を統合し、高リスククローンの同定とその動態の解明を目指す。
|