研究課題
マウスAPOBEC3は同種由来レトロウイルスに対する生理的抵抗因子であり、系統間の遺伝子多型が宿主の感染抵抗性を決定する。我々はマウスAPOBEC3によるレトロウイルス複製阻害がデアミナーゼ活性に依存しないことを示したが、デアミナーゼ非依存性複製抑制機構の全貌は明らかでない。本研究は、マウスAPOBEC3がHIV-1のGag-Pol前駆体からのプロテアーゼ切り出しを阻害するとの我々の観察を基礎に、APOBEC3部分断片や変異体のプロテアーゼ切り出し阻害効果を比較解析して、HIV-1 Gag-Pol前駆体とマウスAPOBEC3との相互作用部位を同定し、もって新規抗レトロウイル薬開発のシーズとすることを目標としている。平成29年度は、マウスAPOBEC3とHIV-1およびマウスレトロウイルスプロテアーゼとの相互作用部位を絞り込むことを目的に、マウスAPOBEC3のN-末端側Z2ドメインのみ、およびC-末端側Z3ドメインのみを発現するプラスミドを構築した。一方、マウスレトロウイルスプロテアーゼのC-末端側欠失変異体も複数作成し、これらの相互作用をプルダウン法により解析した。その結果、HIV-1およびマウスレトロウイルスGag-Pol前駆体からのプロテアーゼ切り出しは、何れもマウスAPOBEC3のC-末端側ドメインのみの存在下で阻害されること、マウスAPOBEC3とマウスレトロウイルスプロテアーゼの結合は、プロテアーゼ分子のN-末端側から105残基までが存在する場合はこれが正常に起こり、N-末端側から85残基までを発現させた場合には見られなくなることが明らかとなった。また、デアミナーゼ活性の無いN-末端側Z2ドメインE73Aアミノ酸置換体は、野生型同様にウイルス粒子に取り込まれ、Gag-Pol前駆体からのプロテアーゼ切り出し活性も保たれることが示された。
2: おおむね順調に進展している
マウスAPOBEC3とレトロウイルスプロテアーゼとの相互作用部位を明らかにする目的に向かって、各分子の部分断片発現による結合部位絞り込みが計画通り進んでいる。当初はHIV-1のプロテアーゼ切り出し阻害とマウスレトロウイルスのプロテアーゼ切り出し阻害で、それぞれに有効なAPOBEC3のドメインが異なるものと考えていたが、今年度の研究で両者が何れもC-末端側Z3ドメインにより阻害されることが明らかとなった。これにより、HIV-1のプロテアーゼ切り出し阻害に有効なAPOBEC3側の構造要件を、マウスレトロウイルスプロテアーゼを相互作用の相手として解析していくことが有用であるとの根拠を得た。マウスレトロウイルスプロテアーゼの部分断片発現による相互作用部位絞り込みも順調に進み、少なくとも一次構造上は、85番目から105番目のアミノ酸残基が重要であると示された。デアミナーゼ活性の無いN-末端側Z2ドメイン活性中心変異体でもプロテアーゼ切り出し阻害が起こることから、APOBEC3によるプロテアーゼ切り出し阻害が、デアミナーゼ非依存性複製抑制機構の少なくとも一端を担うことも明らかに出来た。
プロテアーゼ切り出し抑制に関わるのはC-末端ドメインであることがわかっているので、C-末端ドメインの部分欠損タンパク質発現により、阻害活性決定部位を一次構造範囲中にさらに絞り込む。その上で、候補となる部位のAPOBEC3アミノ酸配列に基づく互いに重複する合成ペプチドを設計し、全長のAPOBEC3によるプロテアーゼ切り出し阻害の検出系に加えて、競合阻害の有無をWestern blot法により検定する。また、既にHIV-1プロテアーゼの系で確立されているFRET法による二量体化の検出系を、マウスレトロウイルスプロテアーゼ、及びHIV-1 Gag-Pol前駆体に展開する。即ち、発現ベクターを用いてシアン蛍光タンパク質(CFP)及び黄色蛍光タンパク質(YFP)をそれぞれ結合させたHIV-1 Gag-Pol前駆体、または同様のMuLV Gag-Pol前駆体またはプロテアーゼモデルタンパク質を作製し、マウスAPOBEC3、その単一ドメイン、或いは部分断片の存在下で蛍光の変化を検出する。以上の実験結果を基礎に、HIV-1 Gag-Pol前駆体からのプロテアーゼ切り出しを阻害する新規抗レトロウイルス薬シーズを提案する。即ち、プロテアーゼ切り出し阻害活性を示すマウスAPOBEC3の部分断片、或いは機能性ペプチドを同定し、これらとGag-Pol前駆体との結合部位を、Gag-Pol前駆体の断片化、及びGag-Pro-Pol前駆体一次構造に基づく合成ペプチドを用いた競合阻害により絞り込む。また、上記のハイスループット実験系に、マウスAPOBEC3に由来する機能性ペプチドを加える系を指標に、マウスAPOBEC3の機能性部分断片を模する環状ペプチドによる二量体化阻害を検定する。得られた結果を知的財産として登録し、その後製薬企業等との共同研究を展開できるようにする。
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Clinical Cancer Research
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http://www.med.kindai.ac.jp/immuno/