研究課題/領域番号 |
16H05203
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松島 綱治 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50222427)
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研究分担者 |
橋本 真一 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特任教授 (00313099)
上羽 悟史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (00447385)
島岡 猛士 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90422279)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 線維症 / 線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、いまだ不明な点が多いin vivoにおける線維芽細胞の転写制御ネットワークの分子的実体の解明、その肺線維化病態への寄与の解明を目的とした。H28年度は、これまでに見いだした17個の新規ハブ転写因子のうち、線維化病態の進行に応じて発現が低下する転写因子Srebf1の役割につき詳細に解析した。In vitroにおいて、活性化型のSrebf1を過剰発現させた肺線維芽細胞は、その細胞周期がG1期で停止することが、Fucciトランスジェニックシステムにより見出された。次に、肺線維芽細胞の経気道的養子移入法と、時期特異的Srebf1過剰発現系を組み合わせ、マウス生体の線維症肺中の線維芽細胞におけるSrebf1の役割を解析した。その結果、in vivoにおいてSrebf1は線維芽細胞の増殖・活性化を抑制することが見出された。さらに、移入した線維芽細胞のトランスクリプトーム解析により、Srebf1は線維化を増悪させる遺伝子群の発現変動を広範に抑制していることが明らかとなった。実際に、Srebf1を全身で欠損したマウスにおいては線維芽細胞の活性化が増強され、線維化病態も増悪することが見出された。さらに、Srebf1の発現を増強することが知られている上流のパスウェイを、そのアゴニストの治療的投与により増強すると、線維芽細胞の活性化および線維化病態が抑制されることも明らかとなった。これらの結果より、Srebf1はin silicoで示唆されたのと同様に、線維化肺線維芽細胞の転写制御ネットワークにおいて防御的なハブ遺伝子として機能していることが示唆された。今後、Srebf1やその他のハブ転写因子による、肺線維芽細胞活性化制御のより詳細な分子機構の解明、Srebf1の薬剤による間接的増強法の開発を通じ、新規肺線維症治療法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画において、新規ハブ転写因子による、急性・慢性・寛解という3つの肺線維芽細胞活性化スペクトルの制御機構、およびその肺線維症病態に対する意義の解明を目的として設定していた。H28年度までに、ハブ転写因子の一つであるSrebf1が、 in vivoにおいて線維芽細胞の活性化、線維症病態の進展に対して防御的に働くこと、ハブ遺伝子として慢性的な肺線維芽細胞活性化スペクトルに含まれる線維化関連遺伝子群の発現変動を広範に抑制していることの解明に成功した。これらの結果は、当初設定した目標を満たすものであることから、本研究は当初の計画通り、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、当初の研究計画およびH28年度得られた結果に基づき、ハブ転写因子Srebf1による線維芽細胞活性化制御のより詳細な分子メカニズムを、ChIP-Seq解析による下流シグナル経路の同定などを通じて解明する。また、新規の線維芽細胞特異的Cre発現ノックインマウスを作出し、Srebf1の活性化に必須なタンパク質であるSCAPのfloxedマウスと交配することにより、in vivoにおけるSrebf1経路の線維芽細胞活性化・線維化病態における役割をより特異的な方法で解明する。また、Runx1などの、その他のハブ遺伝子の線維芽細胞活性化に対する生理的意義についても解析を進める。Srebf1の発現を増強する薬剤介入法の最適化により、新規肺線維症治療法開発の可能性を検討する。
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