研究課題
病原体等に対する免疫記憶の形成は獲得免疫系の最大の特徴であり、ワクチンの原理でもあるが、その本態はよく分かっていない。記憶B細胞は免疫応答時に産生され、親和性成熟を経た抗原受容体を発現し長期生存するB細胞で、抗原再曝露により直ちに増殖し、抗体産生あるいは胚中心形成を行う(想起応答)。私たちは、記憶B細胞に選択的に発現するIL-9受容体(IL9R)が、想起応答における記憶B細胞の増殖と形質細胞への分化、抗体産生を促進すること、そして、免疫応答時にIL-9を産生する主な細胞は記憶B細胞であることを見出した。よって、記憶B細胞の一部はIL-9を介して記憶B細胞自身の想起応答を制御するエフェクター記憶B細胞(Bm9と呼ぶ)と考えられた。平成29年度は、想起応答におけるBm9細胞の新たな機能を見出した。すなわち、IL-9はin vitroで記憶B細胞上のICOSリガンドの発現を選択的に抑制することを見出した。また、IL-9R欠損マウスの想起応答では胚中心B細胞の産生が増強していた。これは、IL-9R欠損記憶B細胞がICOSリガンドを介してより強く記憶T細胞を活性化し、そのため胚中心B細胞への分化が促進されたためと考えられた。このことはICOSリガンドに対する阻害抗体のin vivo投与によって証明された。よって、Bm9細胞はIL-9を介して記憶B細胞から胚中心B細胞への分化を抑制する機能を持っていることが分かった。一方、IL-9はin vitroでは記憶B細胞や胚中心B細胞の生存には影響しないことも分かった。
3: やや遅れている
記憶B細胞に相当するiMB細胞をCD40LとBAFFを発現させたフィーダー上で培養する際に、様々なサイトカイン・刺激因子を加え、IL-9の発現を誘導する因子の同定を試みた。しかし、フィーダー上で培養するだけでIL-9の発現が誘導され、それ以上に増強する因子は見出せなかった。IgG1+記憶B細胞の中で、IL-9を発現するBm9細胞とそうでない細胞で発現の異なる細胞表面抗原を探索したが、フローサイトメトリーで検出できる程の違いを示す抗原は見出せなかった。IL-9の発現を容易に検出可能なレポーターマウスの作製を試みているが、予定通りのゲノム改変マウスの作出には至っていない。また、非蛋白エピトープを有する抗原 による能動的アレルギー性皮膚炎誘導実験系の確立に手間取っている。また、コラーゲン誘導性関節炎 や実験的アレルギー脳脊髄炎の系にはまだ着手できていない。
Bm9細胞の同定・単離によるプロファイリングのために、IL-9レポーターマウスの作製を継続して行う。能動的アレルギー性皮膚炎誘導系やコラーゲン誘導性関節炎、実験的アレルギー脳脊髄炎の系を立ち上げ、B細胞選択的IL-9欠損キメラマウスにこれらを誘導し、Bm9細胞の病原的機能について調べる。また、T細胞非依存性免疫応答を制御するIL-9産生細胞を探索する。
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