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2017 年度 実績報告書

抗原取り込みに特化した特殊腸管上皮M細胞の分化と機能

研究課題

研究課題/領域番号 16H05207
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

大野 博司  国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, グループディレクター (50233226)

研究分担者 金谷 高史  国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 研究員 (20553829)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード腸管免疫系 / GALT / M細胞 / 濾胞関連上皮(FAE) / NFkB / 遺伝子欠損マウス
研究実績の概要

我々は、RANKLの受容体RANKからのシグナルにより、未分化上皮細胞に発現誘導される転写因子Spi-BがM細胞の分化に必須であることを明らかにしてきたが、今年度は腸管上皮オルガノイドへのSpi-Bの強制発現系を用いて、Spi-BはM細胞の分化に必要だが十分ではないことを示した。また、RANKの下流で働くNF-kBには古典経路・非古典経路が存在するが、M細胞の分化にはこの両方が必要であることを、古典経路のTraf6の腸管上皮特異的欠損マウスや、非古典的経路のNIKやRelB欠損マウスから作製した腸管上皮オルガノイドのRANKL刺激系を用いて明らかにした。さらに、非古典経路のみではM細胞の分化には不十分であり、古典経路の活性化により発現する未知の転写因がSpi-Bと協働することが必要であると考えられる。
我々はまた、M細胞が存在する濾胞関連上皮に特徴的な表現型の分子機構を明らかにした。Th17細胞や自然免疫細胞のひとつILC3から分泌されるIL-22が上皮細胞上のIL-22受容体に作用することにより、粘液の構成成分であるMuc3や抗菌ペプチドReg3γの発現が上昇することがしられている。一方、M細胞を有する濾胞関連上皮は絨毛上皮と異なり、粘液産生する杯細胞やその粘液産生が少なく、また上皮細胞からのReg3γなどの抗菌ペプチドの分泌が少ないなど、腸内細菌が近づきやすいような性質を有している。我々は、パイエル板のCD11b+CD8-樹状細胞がIL-22BPというIL-22と強い親和性を示す分子を分泌し、IL-22とIL-22受容体との結合に拮抗することで、濾胞関連上皮ではIL-22シグナルが入らず、粘液や抗菌ペプチドの産生を抑えて腸内細菌取り込みに適した性質を持つようになることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

M細胞やパイエル板の分化・機能における、食物抗原の影響は調べられていない。食物抗原の影響を調べるには、高分子蛋白質の代わりに各種アミノ酸を配合し、さらにビタミンや脂質などの栄養成分を添加した、いわゆる「無抗原餌」を与えることで、食物抗原の影響を排除した「無抗原マウス」を用いる必要がある。無抗原マウスは飼育が難しく、世界的にもあまり確立されていなかったが、無抗原マウスの飼育・繁殖に成功し論文を出している韓国のグループとの共同研究により昨年度韓国を訪問・見学し、そのノウハウを習得し、無抗原マウス系を昨年度に樹立した。無菌マウスではSPFマウスと比較して、腸管免疫系の機能に重要な免疫グロブリンであるIgAの糞便内濃度が低下するが、無菌・無抗原マウスではさらに著しいIgAの低下が認められた。また、無菌マウス、無菌・無抗原マウスとも、腸管免疫の誘導組織として重要なパイエル板の数はSPFマウスと不変であるが、その大きさは、無菌マウスではSPFマウスと遜色ないのに対し,無菌・無抗原マウスでは顕著に小さくなっていた。それに伴い、パイエル板のB細胞数も無菌・無抗原マウスでは大幅に減少し、B細胞から抗体産生形質細胞への分化に重要な胚中心の発達も無菌・無抗原マウスではほとんど認められなかった。

今後の研究の推進方策

上述のように、転写因子Spi-BはM細胞の分化に必要だが十分ではなく、古典経路の下流で活性化すると想定される未知の転写因子がSpi-Bと協調して働く必要が示唆される。そこで古典経路、非古典経路それぞれを刺激した腸管上皮オルガノイドの遺伝子発現をRNAseqにより比較することでSpi-Bと協働する未知の転写因子の同定を試みる。
また、腸管上皮オルガノイド系を用いて、M細胞の細菌取り込みの分子メカニズムを探求する。具体的には、まず腸管上皮オルガノイドの単層培養系に腸内細菌を添加し、その取り込みが見られるかを検討する。取り込みが見られた場合には、その際にどのような分子(例えばエンドサイトーシス経路に働くRabファミリーGTPaseのうちM細胞に高発現するRab32やFAEに高発現するRab8b)に着目して解析する。
M細胞の分化に細菌・食物抗原の関与に関しては不明であり、それについても実験を開始する。具体的には、無菌マウスや、上述した無抗原マウスを用いた、M 細胞の分化・機能における微生物・食餌性抗原の役割に関する解析を行う。さらに、無菌・無抗原マウスに見られるパイエル板胚中心の未発達のメカニズムを検討する。具体的には、胚中心におけるB細胞から形質細胞への分化に関わる濾胞性ヘルパーT細胞や濾胞性制御性T細胞が正常に分化しているか否かを検証し、それらのいずれかあるいは両方に異常が見られる場合、それらの細胞の遺伝子発現などをSPFマウス、無菌マウスと比較することにより、その分子メカニズムの解明を試みる。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 備考 (3件)

  • [国際共同研究] Emory University/New York University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Emory University/New York University
  • [雑誌論文] Development of intestinal M cells and follicle-associated epithelium is regulated by TRAF6-mediated NF-κB signaling.2018

    • 著者名/発表者名
      Kanaya T, Sakakibara S, Jinnohara T, Hachisuka M, Tachibana N, Hidano S, Kobayashi T, Kimura S, Iwanaga T, Nakagawa T, Katsuno T, Kato N, Akiyama T, Sato T, Williams IR, Ohno H.
    • 雑誌名

      J. Exp. Med.

      巻: 215 ページ: 501-519

    • DOI

      10.1084/jem.20160659

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] NALT M cells are important for immune induction for the common mucosal immune system.2017

    • 著者名/発表者名
      Date Y, Ebisawa M, Fukuda S, Shima H, Obata Y, Takahashi D, Kato T, Hanazato M, Nakato G, Williams IR, Hase K, Ohno H.
    • 雑誌名

      Int. Immunl.

      巻: 29 ページ: 471-478

    • DOI

      10.1093/intimm/dxx064.

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Uromodulin-SlpA binding dictates Lactobacillus acidophilus uptake by intestinal epithelial M cells.2017

    • 著者名/発表者名
      Yanagihara S, Kanaya T, Fukuda S, Nakato G, Hanazato M, Wu XR, Yamamoto N, Ohno H.
    • 雑誌名

      Int. Immunol.

      巻: 29 ページ: 357-363

    • DOI

      10.1093/intimm/dxx043

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] IL-22BP dictates characteristics of Peyer's patch follicle-associated epithelium for antigen uptake.2017

    • 著者名/発表者名
      Jinnohara T, Kanaya T, Hase K, Sakakibara S, Kato T, Tachibana N, Sasaki T, Hashimoto Y, Sato T, Watarai H, Kunisawa J, Shibata N, Williams IR, Kiyono H, Ohno H.
    • 雑誌名

      J. Exp. Med.

      巻: 214 ページ: 1607-1618

    • DOI

      10.1084/jem.20160770

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] Characteristics of M cells and follicle-associated epithelium2017

    • 著者名/発表者名
      Ohno, H., Kanaya, T.
    • 学会等名
      第46回日本免疫学会学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] IL-22 binding protein (IL-22BP) regulates the properties of follicleassociated epithelium (FAE) to facilitate antigen uptake into Peyer's patches2017

    • 著者名/発表者名
      Kanayak T., Jinnohara, T., Hase, K., Sasaki, T., Watarai, H., Shibata, N., Kuniswa, J., Kiyono, H., Ohno, H.
    • 学会等名
      第46回日本免疫学会学術集会
  • [学会発表] Lactobacillus acidophilus L-92株の小腸パイエル板の M細胞からの取り込みに関与する生体分子の探索2017

    • 著者名/発表者名
      柳原 沙恵, 金谷 高史, 弘田 辰彦, 山本 直之, 大野 博司
    • 学会等名
      第13回日本食品免疫学会学術大会
  • [学会発表] The function of M cells in host-microbe interaction2017

    • 著者名/発表者名
      Ohno, H
    • 学会等名
      Symposium 207 Gut Microbiome and Mucosal or Systemic Dysfunction Mechanisms, Clinical Manifenstations and Intervention
    • 招待講演
  • [備考] 理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム

    • URL

      http://www.riken.jp/research/labs/ims/intest_ecosys/

  • [備考] 理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム

    • URL

      http://leib.rcai.riken.jp/riken/index.html

  • [備考] Laboratory for Intestinal Ecosystem, RIKEN IMS

    • URL

      http://www.riken.jp/en/research/labs/ims/intest_ecosys/

URL: 

公開日: 2018-12-17   更新日: 2022-05-20  

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