平成29年度末にアドバンス・ケア・プラニング(ACP)の全国的な認知度が低いという全国調査の結果と、ACPの定義を含む「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が厚生労働省より公表された。これらを受け、本研究の計画当初に予定していたランダム化比較試験(RCT)の遂行は、ACP自体の実施可能性が不明なため時期尚早であること、まずは患者の大切にしていることを尊重するというスピリチュアルケアの基本的な考え方を取り入れつつも、国のガイドラインも念頭に置いたACPのきっかけ作りのプログラムを開発・実装する実施可能性試験が最優先であると考えた。 以上より、平成30年度は、ビデオを活用し、患者の大切にしていることの気づきとそれに沿った意思決定支援を軸としたACPのきっかけ作りのプログラムを開発した。国立がん研究センター中央病院の膵がん・胆道がん教室を運営する多職種の医療者の協力を得て実装を開始した。同教室で計3回のACP介入を行い、がん患者と家族計30名以上が参加した。途中退室したり不安や不快感を表出したりする参加者はおらず、授業後の調査にて有用性と自己効力感を各々6件法で評価したところ、約90%の参加者が「役に立つ」「これから考えていきたい」と回答した。授業後の参加者との面談では、「抗がん剤の後のことが気になる」「生きていく指針と感じた」「温泉や旅行など目標をもって生きていこうと思った」「今後は治療を継続しながら、子どもに生き方を伝えるタイミングを計っていきたい」等の生きる意味に関する発言が多かった。 したがって、スピリチュアルケアを取り入れたACPのきっかけ作りの介入は、①実施可能性が高く有効であることが量的に示され、②治療の意思決定支援だけでなく、生きる意味の気づきを促し継続的に支える姿勢を示すことが効果のメカニズムに寄与しうることが質的に示唆された。
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