急性大動脈解離は突然大動脈壁の内膜から中膜にかけて亀裂を生じ、大動脈破裂や血管の閉塞等の致命的な合併症を引き起こす、非常に死亡率の高い疾患である。しかしながら、その発症機序はほとんど解明されていない。近年、ヒト大動脈瘤の進展および大動脈解離の発症に慢性炎症が寄与することが示唆されている。また、動物実験においても大動脈瘤および解離の発症に慢性炎症が関与する可能性が示されつつある。しかし、それらの診断ないしモニタリングに有用なバイオマーカーは十分に確立されていない。炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)はその候補として注目されている。本研究では、自治医科大学病院で保存的治療を行った急性大動脈解離患者を対象に、経時採血を行い、血中IL-6値と偽腔の位置や開閉、予後と比較し、その臨床的有用性を検討した。さらに、新たなIL-6に関連する病態因子の探索を目的とし、メタボローム解析を行った。その結果、入院時のIL-6値が高い症例ほど、入院中の大動脈径が大きくなる傾向が認められた。IL-6が治療標的となる可能があるが、IL-6を分子標的とし、その薬効を検証するためには、IL-6およびその関連因子が大動脈病態の原因物質であることを強固に示す必要がある。また、大動脈解離の病態に関与する代謝物を同定した。今後は、症例を増やし、エビデンスを蓄積することにより、基礎研究で大動脈解離の発症メカニズムをさらに明らかにすると同時に、臨床研究で新しい診断および治療戦略の開発を目指す計画である。本研究のように、ヒトを対象とした臨床研究および、それを検証する基礎研究を重ねることにより、新しい急性大動脈解離の診断および治療法が開発される可能性がある。
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