研究課題
本研究では、糖鎖解析技術を用いて、消化器疾患を中心に糖鎖バイオマーカーを開発し、非侵襲的な診断法を開発することを目的とする。また単一のマーカーだけではなく画像診断も含めた、組み合わせにより診断効率をあげることを目指す。まず慢性膵炎の新しい糖鎖バイオマーカーとして、PhoSL Hptを見出し、論文にアクセプトされた(Ueda et al, Pancreatology 2016)。このデータをもとに、人間ドックにおける潜在性慢性膵炎の抽出を検討している。現在の慢性膵炎診断のガイドラインでは、生化学検査(アミラーゼやリパーゼなど)はグレードCにとどまり、他の糖鎖マーカー、さらには画像検査を含めた総合的な評価が必要と考えられる。マウスMac-2bpに対するラットモノクローナル抗体の樹立と、それを用いたELISAの構築に成功した。高脂肪食やコリン欠乏食を使ったマウスNAFLDモデルにおいて、血中Mac-2bpは有意に上昇し、ヒトと同様にNAFLDのバイオマーカーとなる可能性が示唆された。以上の成果を論文として公表した(Iwata et al, Heoatology Research 2016)現在、食事療法による治療効果の判定にMac-2bpが有用か否か検討している。フコシル化ハプトグロビンやフコシル化Mac-2bpに対する糖鎖抗体を作成し、そのCharacterizeを行った。特許の関係で詳細は記載できないが、抗体の中には免疫染色に使うことができるものもあり、これまで行ってきた研究の仮説を実証できるツールとして期待される。前立腺がん患者の尿中PhoSL反応性PSAが、組織学的に進行した症例では有意に低下し、前立腺生検を行うか否かを決定できる指標となる可能性が有る。以上の結果を論文に公表した(Fujita et al, Oncotarget 2016)。
2: おおむね順調に進展している
慢性膵炎の診断ツールとして、成果には書ききれないほどの新しいマーカーを発見した。膵臓の生検ができない本疾患において、複数のバイオマーカーを組み合わせることは重要と考えられ、今後AI技術の進歩により革新的な診断法につながる可能性がある。NAFLDの診断においても、あまりにも多くの患者がいる脂肪肝に対して肝生検を行うのは不可能で、バイオマーカーによる診断は必須と思われる。我々が開発した糖鎖バイオマーカーは、世界的に報告されているどのマーカーよりも優れていて、今後実際の診断まーかーとして保険収載まで期待できる。マウスMac-2bpのELISA kitは、すでに企業から販売されるようになった。今後、様々なNASHの治療薬が開発されると思われるが、動物実験で薬剤の有用性を経時的に評価できる重要なツールとして期待できよう。最後の尿中PhoSL反応性PSAに関する研究は、現在人間ドックで最も問題となる不必要な前立腺がんの精密検査(生検)を回避できる新規バイオマーカーとして期待される。初年度にもかかわらず、本研究課題に関する論文が3本以上書けたことは、研究が順調に進んでいることを示す。
ビッグデータの解析のため、大阪大学医療情報部の松村教授と共同研究を行い、新規診断法の確立を目指す。すでにキット化されたバイオマーカー、および現在開発中のキットに関しては、できるだけ産学連携や大阪大学の橋渡し研究を活用して、実際の臨床検査として保険収載まで目指す。またバイオマーカーを単に有用、有用でないを検証するだけでなく、疾患特異性やなぜその疾患でバイオマーカーが上昇するのかという分子機構についても検討する。さらに、最難関とされる新しい糖鎖抗体の開発にも全力を尽くしたい。当初アルコール性肝疾患についても検討中であったが、臨床研究の倫理指針の変更に伴い、臨床サンプルの入手が困難となった。このため人間ドックレベルでの研究に止めたい。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 産業財産権 (3件)
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