研究課題
1)起痒物質の頬への注入による掻痒モデルの中枢性感作機構の解明 ── 抗マラリア薬クロロキンを頬に注入して、クロロキンで誘発される痒み行動の経時変化と濃度依存性を比較検討した後に、c-fosの発現で中枢性感作機構の解明を進めた。さらに、セロトニンを頬に注入して痒みを起こし、延髄の三叉神経脊髄路核でc-fosの上昇が限局して見られることを示した。野生型マウスに比べてグルタミン酸受容体GluN2Bの1492番目のTyr残基がリン酸化できないY1472Fノックインマウスを用いるとクロロキンの掻痒行動は有意に減少したが、セロトニンは掻痒行動に差が無かったことから、2つの起痒物質で中枢神経経路と中枢性感作機構が異なることが示唆された。現在、延髄でのc-fosの発現の時空間的解析により中枢神経系の伝達経路と関与する神経伝達物質の解明を進めている。2)慢性掻痒モデルによる中枢性感作機構の解明 ── 乾燥性皮膚掻痒モデルを野生型マウスとY1472Fノックインマウスに適用して、誘発される痒み行動の反応強度と経時変化を比較検討した結果、野生型マウスに比べてY1472Fノックインマウスで掻痒行動が減少したことから、慢性掻痒でもグルタミン酸NMDA受容体GluN2Bのリン酸化が関与していることを明らかにした。3)下肢における掻痒モデルの確立と脊髄後角での中枢性感作機構の解明 ── 下肢における掻痒モデルと痛覚の中枢性感作機構の違いを解明するために、下肢にクロロキンを注入して、掻痒モデルの確立を行った。4)脊髄後角の神経ネットワークの解析 ── Ca2+インディケータータンパクが発現する遺伝子改変マウスの刺激応答パターンを脊髄スライス標本あるいはin vivoで多光子励起顕微鏡を用いて検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
クロロキンに関する痒みの論文を発表することができた。その後、セロトニンの掻痒行動がY1472Fノックインマウスで差が無いことから、脊髄後角の中枢性感作機構の解明の糸口がつかめた。さらに、脊髄後角の中枢神経系のネットワークを解明するためのツールとしてc-fos-YFPトランスジェニックマウスを入手し、クロロキンとセロトニンのc-fosの発現の違いを検討している。慢性掻痒モデルの中枢性感作機構を解明するために乾燥性皮膚掻痒モデルの作製を行った。脊髄後角のネットワークをin vivoで解析するために多光子励起顕微鏡システムを確立していることから、おおむね順調に進展していると考えている。
研究代表者らは、これまで痛み、特に神経障害性疼痛の脊髄後角でのネットワークの解明を進め、その研究成果、コンセプトを、一般市民を対象とするブルーバックス『痛覚のふしぎ』にわかりやすくまとめ、平成29年3月に上梓した。本研究では痒みと神経障害性掻痒の中枢性感作機構の解明と脊髄後角のネットワークの解析を進める計画を立てている。痛みと痒みは同じ神経経路・作用機構を介するのか、異なるのかは長年の課題である。本研究に必要な実験技術や機器は整っているので、急性と慢性の痒みの研究を推進する。すでに確立した神経障害性疼痛と神経障害性掻痒の経路・作用機構を比較することにより、痛みと痒みが同じなのか違うのか、相互作用しあうのか解明できることに期待している。さらに、c-fos-YFPマウスを用いることにより、大脳皮質までの痒みと痛みの神経伝達経路、活性部位が同じか異なるか比較することができる。
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