研究課題
1)c-fosの発現解析による痒みの神経伝達経路の解析脊髄や三叉神経脊髄路角において痒み刺激や痛み刺激に対するc-fosの発現位置は非常によく似ており、異なる細胞群において伝達されているのか識別するのは容易でない。そこでFos-tTA、Fos-EGFP、TRE-hM4Diマウスを作製し、痒みや痛み刺激に応答したc-fos発現ニューロンの人為的な活動抑制を行い、それにより他の痒みや痛み刺激に対する応答が変化するか解析した。その結果、生食を注射したコントロール群と比較してカプサイシン、クロロキン投与群は共に2度目のクロロキン注射に対する掻破行動を低下させた。2)In situ ハイブリダイゼーションと免疫染色による痒み経路の比較セロトニンの伝達経路とヒスタミンやクロロキンの伝達経路が異なるかを明らかにするためにmRNAとタンパクの発現時間の差を用いてin situ ハイブリダイゼーションと免疫染色による発現比較解析を行った。しかし、ヒスタミン-ヒスタミンやα-メチルセロトニン-α-メチルセロトニンの組み合わせにおいても二重染色される割合が低く同じ細胞が同じ刺激に応答しているというコントロールを取ることが難しかった。これはin situ ハイブリダイゼーションと免疫染色の感度の差が大きいためであると推測された。3)慢性的な痒みマウスの作製と脳における痒み経路の探索ビタミンD3のアナログ体を用いて慢性的な痒みモデルの作製を行った。1週間のコンディショニングにより頬に乾燥や表皮肥大化や炎症メディエーターであるTSLPのmRNAの発現増加が見られ、自発的な掻破行動が見られたが、痒みの伝達物質GRPへの応答の上昇などの可塑性は見られなかった。現在、このマウスを用いて脳におけるc-fos発現解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
クロロキンに関する痒みの論文を発表することができた。その後、セロトニンの掻痒行動がY1472Fノックインマウスで差が無いことから、脊髄後角の中枢性感作機構の解明の糸口がつかめた。さらに、脊髄後角の中枢神経系のネットワークを解明するためのツールとしてFos-tTA、Fos-EGFPダブルトランスジェニックマウスとTRE-hM4Diマウスを入手し、これらのマウスを掛け合わせFos-tTA、Fos-EGFP、TRE-hM4Diマウスを作製した。現在、急性掻痒モデルと慢性掻痒モデルでc-fosの発現の違いを検討している。慢性掻痒モデルの中枢性感作機構を解明するために乾燥性皮膚掻痒モデルだけでなく、ビタミンDアナログを用いた慢性掻痒モデルの作製に成功した。現在、本研究に必要な遺伝子改変マウスを次々と作製している。そして、脊髄後角のネットワークをin vivoで解析するために多光子励起顕微鏡システムを確立していることから、おおむね順調に進展していると考えている。
研究代表者らは、これまで痛み、特に神経障害性疼痛の脊髄後角でのネットワークの解明を進め、その研究成果、コンセプトを、一般市民を対象とするブルーバックス『痛覚のふしぎ』にわかりやすくまとめ、平成29年3月に上梓した。本研究では痒みと神経障害性掻痒の中枢性感作機構の解明と脊髄後角のネットワークの解析を進める計画を立てている。痛みと痒みは同じ神経経路・作用機構を介するのか、異なるのかは長年の課題である。本研究に必要な実験技術や機器は整っているので、急性と慢性の痒みの研究を推進する。すでに確立した神経障害性疼痛と神経障害性掻痒の経路・作用機構を比較することにより、痛みと痒みが同じなのか違うのか、相互作用しあうのか解明できることに期待している。さらに、様々な遺伝子改変マウスを用いることにより、大脳皮質までの痒みと痛みの神経伝達経路、活性部位が同じか異なるか比較することができる解析の準備を進めている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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