研究課題/領域番号 |
16H05234
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研究機関 | 広島文化学園大学 |
研究代表者 |
森田 克也 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (10116684)
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研究分担者 |
本山 直世 広島大学, 医歯薬保健学研究科(歯), 助教 (70509661)
北山 友也 武庫川女子大学, 薬学部, 講師 (60363082)
土肥 敏博 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (00034182)
尾野 雅哉 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (00270900)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 新規内因性鎮痛物質 / 疼痛 / がん性疼痛 / 難治性疼痛 / がん細胞培養上清 |
研究実績の概要 |
申請者らは,がん細胞自身がオピオイド作動性神経を活性化する液性因子を産生・遊離して「疼痛発現を遅らせている」のではないかという独自の発想に基づき,その可能性について検討し,以下の成果を得た.①がん細胞の培養上清に著明な鎮痛効果を見出した.②本鎮痛活性はがん細胞を移植した動物の血清中にも存在し,がん性疼痛発症前から高い活性を示すこと,神経障害性疼痛モデル動物にがん細胞を皮下組織に移植することで,移植直後から動物が衰弱するまで長期間にわたり疼痛反応を消失させた.③培養上清全身投与により,酢酸writhing test, Hot plate test, Tail immersion testでも鎮痛効果を認めた.④本物質はペプチド性生理活性物質と考えられ,血液脳関門を通過し,中枢神経系MOP (μ) 受容体に作用して,鎮痛効果を現すことを明らかにしてきた.⑤がん細胞移植マウスでは便秘,吐気,行動抑制,呼吸抑制,依存形成等(モルヒネの臨床応用上問題となる副作用)は認めなかった.これらの知見は,がん細胞が未知の内因性鎮痛物質を分泌して疼痛を制御しており,当該物質は新規生体内鎮痛物質として原因の異なる様々な疼痛疾患に有効な,新たな治療戦略の開拓とモルヒネの臨床応用上問題となる副作用の少ない新規鎮痛薬開発のシーズとなる可能性が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
がん細胞が産生・遊離する内因性鎮痛ペプチドの同定と新しい疼痛治療法の開発を目標として以下の項目について検証してきた. 新規鎮痛ペプチドの同定:平成28~29年度,該当ペプチドが血液脳関門を通過できる特性に注目し,部分精製したペプチドを全身投与後,脳脊髄液中に増加するペプチドを候補物質として同定を試みる等,様々な工夫を凝らして,精力的に行ってきたが同定に難渋しており達成出来ていない.このため,同定と並行して培養上清或いは部分精製品,或いはがん細胞移植動物を用いて鎮痛作用の検証,副作用/耐性,依存形成の有無,代謝,受容体等の予備解析を行い,当該物質が中枢神経のMOP受容体に作用して鎮痛効果を表す.鎮痛作用は強力であるが,オピオイドの臨床応用上問題となる便秘や吐気,行動抑制,呼吸抑制,依存形成,摂取強化等の副作用は観察されていない.従って,当該ペプチドはMOPシグナル伝達を解明するためのプローブとして,また,現在のオピオイドの多くのside effectsがない治療薬開発のリード物質として有用である.現在,当該物質の同定とMOP受容体に作用しても副作用が出現し難いメカニズムの解明を急いでいる. 当該物質の同定,合成ペプチドが出来次第,予備実験の結果に基づき,迅速な本格的研究を遂行することで,実験実施期間の短縮をはかる.
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今後の研究の推進方策 |
1.新規鎮痛ペプチドの同定:近年,膜透過性ペプチド(CPP)として,塩基性アミノ酸に富むもの,塩基性部分と疎水性部分を有する両親媒性ペプチド等が知られてきた.これら特性も加味して,ゲルろ過・イオン交換HPLC・逆相HPLC等の手法も取り入れて同定に注力する. 2.本鎮痛ペプチドの代謝を阻害することでがん性疼痛およびターミナルケアにおける疼痛緩和の有力な治療法となる可能性がある.培養上清,或いは部分精製品を用いて ①当該ペプチドの代謝(分解)を抑制するペプチターゼ阻害薬について明かにし,『ペプチターゼ阻害薬』の鎮痛増強作用から,新しい疼痛緩和療法の可能性について検証する.②がん細胞の増殖・成長・細胞周期,がん病巣の増殖,組織浸潤,転移に対する当該ペプチドの作用について明らかにし,がん細胞が産生・遊離する鎮痛ペプチドの病態生理学的役割を解明する. 3.鎮痛作用の検証,副作用/耐性,依存形成の有無の解明から,様々な疼痛疾患に普遍的に有効な鎮痛薬として開発する.(1)当該ペプチドの臨床応用を視野に,①培養上清,或いは部分精製品の単回投与および頻回連続投与による詳細な行動薬理学的研究(一般症状の変化,認知能力,社会行動性等)を行う.特に依存形成については腹側被蓋野‐側坐核のc-Fos発現やマイクロダイアライシスによるドパミン遊離から検証する.②オピオイドの鎮痛作用はG protein を介する経路により,呼吸抑制や便秘,耐性,摂取強化等の副作用はβ-arrestin-2を介する経路により齎される.当該ペプチドがMOP受容体に作用しても副作用が出現し難いメカニズムについてMOPへのβ-arrestin-2のrecruitmentについてPathHunter enzyme complementation assay 及びMORの免疫沈降で共沈するβ-arrestin-2量から検証する.受容体の内在化やリガンド誘導性のMOP細胞膜内再分布についても検証し,様々な疼痛疾患に有効な鎮痛薬となる可能性について明らかにする.
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