研究課題
次世代のがん放射線治療を担うスキャニング照射方式を採用した陽子線治療システムを対象に、がん病巣の形状や性質に合わせて標 的内3次元線量分布を自在にコントロールし、かつ位置決めや標的の動きに起因する誤差も考慮して正常組織への影響を最小化するロ バストな治療最適化技術を開発している。平成29年度は、(1) スポットスキャニングの特徴を活かした標的目標線量分布の設定と照射方法の開発においては、IMPT(強度変調陽子線治療)の考え方に基づき、正常組織への線量を下げつつ腫瘍への線量集中をより高めた、一方向、多方向照射による標的目標線量分布の形成方法を検討した。また、統計的/確率的評価に基づく位置誤差に基に、スキャニングに対してロバストな線量分布形成方法を検討し、同時にLET、RBE等の生物学的効果等の可視化方法、それらの効果を考慮した標的陽子線線量分布最適化方法を検討した。(2) 動く標的の空間移動方向とビーム照射方向を考慮した線量分布最適化方法の開発においては、治療時の実測データに基づく腫瘍の移動(主に呼吸性移動)に対して、移動方向をビーム照射方向とスキャニング平面方向に分解した幾何学的モデルを開発し、動く標的の空間移動方向とビーム照射方向の相関を考慮した線量分布誤差を統計的/確率的に評価した。(3) 臨床的観点からの治療計画最適化とトレードオフスタディの実現においては、統計的/確率的評価に基づく位置誤差を考慮した腫瘍と隣接重要臓器の線量分布に基づき、臨床的観点からの治療計画における線量最適化とトレードオフスタディの評価モデル/方法を検討した。これらの開発と並行して、海外の粒子線治療研究者との情報交換、交流を深め、スキャニングを用いた陽子線(粒子線)治療におけるガイドラインを共同で執筆して国際専門誌に投稿し、掲載された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に対する研究計画に対応する平成29年度の進捗状況を以下に要約するが、いずれも当初の年度研究計画に沿って研究結果が得られており、順調に進展している。位置決め誤差、呼吸等で移動する動きの誤差等、種々の要因による位置誤差と、粒子線照射装置の持つ特有な非等方線量誤差等を統計的に評価する方法を開発し、IMPTの考え方をもとに生物学的効果も考慮した線量分布最適化の指針を検討している。また、動く標的の動きに対して、移動方向をビーム照射方向とスキャニング平面方向に分解した新たなモデルを開発し、統計的/確率的誤差評価を実現した。これらの検討結果に基づいて、呼吸等で移動するがん病巣と隣接臓器の線量分布に基づくトレードオフスタディを治療計画で実現する方法を検討している。
本研究は、平成26年3月に治療を開始した北海道大学病院陽子線治療センターを主な研究実施場所として、関連する北大病院医学物理室、工学研究院量子理工学部門、医学研究科放射線医学分野が協力し、医工連携体制で実施している。また、陽子線線治療におけるIMPT治療計画、陽子線治療特有の動体追跡ゲーティング照射法を開発するため、すでにX線治療でIMRT、動体追跡を実施している北大病院放射線部とも連携して研究を推進している。今後もこれらの密接な連携を通じて課題を解決し、実用化していく。また、米国医学物理学会、米国/欧州放射線腫瘍学会等でのさらなる海外の研究者との交流、情報交換を通じて、研究内容を推敲すると共に、北大の陽子線治療装置の最大の特徴である、呼吸などによる標的の移動を計測してゲーティング照射する動体追跡装置を活用し、特徴的な研究を推進すると共に、その結果を世界に発信していく。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 14件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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