研究課題/領域番号 |
16H05237
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
櫻井 良憲 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (20273534)
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研究分担者 |
近藤 夏子 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (00582131)
田中 浩基 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (70391274)
高田 卓志 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (60444478)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 硼素中性子捕捉療法(BNCT) / 高速中性子 / 生物学的効果比 / 粒子線治療 / 放射線計測 / 品質保証/品質管理(QA/QC) / 医学物理 / 放射線工学 |
研究実績の概要 |
シミュレーション計算を主体に二重ファントムの材質に関して、材質に混入するLi-6の濃度の観点から最適化を行った。液体材質、すなわち、「95%にLi-6を濃縮した6LiOHの水溶液」については、常温でのLiOHの水への溶解度の上限に近い10重量パーセントは必要であるという結果が得られた。この結果は、本研究に先立って行った基礎検討結果を支持するものであった。固体材質、すなわち、「95%にLi-6を濃縮した6LiF入りポリエチレン」については、30重量パーセントで十分であり、これ以上の重量パーセントでは、ポリエチレンによる高エネルギー中性子の減速能が悪くなるという結果が得られた。「30重量パーセントの6LiF入りポリエチレンファントム」と、水素密度を同程度にした「低密度ポリエチレンファントム」の組み合わせにより、ファントム内での高速中性子成分に関する線量評価の高精度化が可能となることが示唆された。 当初は、純水ファントムのみを用いる従来の手法により、京都大学研究炉(KUR)重水中性子照射設備の物理特性および生物学的効果比(RBE)の再評価実験を行う予定であった。しかしながら、平成28年度も原子力規制委員会による新規制基準に対する適合審査のために、KURは運転休止常態にあり、再評価実験を実施できなかった。KUR運転休止期間が平成29年度にも食い込むことを想定して、アメリシウム-ベリリウム(Am-Be)中性子源を用いて二重ファント法の検証を行うことも検討することとした。中性子束、中性子線量率、γ線線量率に関するファントム内中心軸上の深部方向分布を、放射化箔法、熱ルミネッセンス線量計(TLD)、小容積(0.1cc)の組織等価電離箱および黒鉛電離箱を用いて評価した。RBE評価についても基礎的な細胞実験を行い、平成29年度以降の研究のための基礎データの蓄積を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シミュレーション計算による二重ファントムの材質に関する最適化検討については、当初の予定どおり進捗している。 しかしながら、「研究実績の概要」にも記述したように、平成28年度もKURは運転休止常態にあり、予定していた従来の手法によるKUR重水中性子照射設備の物理特性およびRBEの再評価実験を行うことができなかった。KURの代替としてAm-Be中性子源を用いた実験を行い、Am-Beよる二重ファントム法の検証の可能性は示すことはできたが、面線源と点線源、中性子に対するガンマ線の混在比(Am-Beでは混在比が2桁程度大きい)、中性子強度(Am-Beの強度は4桁程度小さい)等で、実際の硼素中性子捕捉療法(BNCT)用中性子照射場とは大きく異なることから、実用的なデータは得られなかった。 以上のことより、進捗状況は区分(3)と判断した。平成29年度中にはKURの運転が再開する予定であるので、平成28年度の遅れを挽回できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の材質に関する最適化検討結果を参考に、二重ファントムの作成を行う。「液体」二重ファントムについては、20cm立方のアクリル製容器に、純水あるいは10重量パーセントの6LiOH水溶液を満たしたものとする。「固体」二重ファントムについては、20cm立方の低密度ポリエチレンと30重量パーセントの6LiF入りポリエチレン製のものとする。固体ファントム母材の作成は業者に依頼する。濃縮6LiOH粉末および6LiF粉末の調達、ならびに、固体ファントム母材の作成・加工には合計6ヶ月程度要する見込みである。 KUR運転の再開は平成29年度7月末の予定である。運転再開後、まず、前年度実施できなかった純水ファントムのみを用いる従来の手法によるKUR重水中性子照射設備の物理特性およびRBEの再評価実験を行う。二重ファントムが完成した後、二重ファントムに関する物理特性およびRBEの評価実験を行う。基準熱中性子照射モード、基準混合中性子照射モード、基準熱外中性子照射モードの3種類の照射モードについて評価実験を行う。物理特性評価実験においては、中性子束、中性子線量率、γ線線量率に関するファントム内中心軸上の深部方向分布を測定する。中性子束は放射化箔法で、γ線線量率はTLDを用いて測定する。また、電離箱による中性子およびγ線線量率測定も行う。RBE評価実験においては、SCCVII腫瘍細胞およびU87の2種類の細胞を用いる。 平成30年度中盤まで、物理特性およびRBEに関する評価実験データを蓄積する。平成30年度後半にこれら蓄積したデータに基づいて、二重ファントム法の有効性の評価を行う。特に、本手法によるRBEの深部方向変化の評価可能性について検討を行う。
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