研究課題
1. 前年度は培養細胞のラマン散乱光分析を試みたが、単層細胞培養では発生するラマン散乱光が極めて微弱であるために解析が十分にできず、摘出組織を用いた散乱光分析を行う方針に変更した。顕微鏡型ラマン装置を用いて実験動物(マウス)の心臓組織、骨格筋組織、肝臓組織、皮膚組織などに特異的なラマン散乱光スペクトルの計測に成功した。また、一部組織では病態モデル(皮膚炎症モデル、脂肪肝モデル、心臓線維化モデルなど)を作製し、正常組織と病態組織の区別が可能なラマンスペクトルの検出に成功した。また、光ファイバーを内蔵したプローブで実験動物(マウス)の心臓組織にレーザー照射を行い、顕微鏡型装置と同等のラマン散乱光スペクトルの記録にも成功した。2. 前年度は培養細胞におけるインピーダンスの測定を行い、心筋細胞単独の培養と、心筋細胞及び骨格筋芽細胞の共培養ではインピーダンスに差があることを見出したが、同時に行う予定であった散乱光分析が培養細胞では困難であったことから、インピーダンス測定も摘出臓器を用いて行う方針とした。摘出したマウスあるいはラットの心臓組織を用いてインピーダンス測定を行った。インピーダンスの実測値を算出することは困難であったが、少なくとも病態によるインピーダンスの変化を検出することに成功した。3. 前年度は心筋細胞のバイドメイン・モデルを作製するところまで完成し、これに交流電流を印可することで発生するインピーダンスをコンピュータ・シミュレーションで算出することを予定していたが、交流電流に対する反応が一定せず、シミュレーションの条件設定を改めて行っている最中である。
2: おおむね順調に進展している
前年度に試験の対象を培養細胞から摘出臓器に変更したが、摘出臓器においても臓器特異的、あるいは病態特異的なラマン散乱光スペクトルの検出に成功し、病態によるインピーダンス値の変化を検出することにも成功した。ラマン散乱光と組織インピーダンスの同時測定は未だ完了していないが、ファイバーを用いたプローブ型ラマン装置も完成したため、同時測定の条件は概ね整った。コンピュータ・シミュレーションについては実測値が無い状況で条件設定に苦慮している部分があるが、実際の計測が軌道に乗れば、これを基に詳細なシミュレーションが可能になる目算である。加えて、当初は心臓を対象とした研究計画であったが、心臓だけでなく肝臓、骨格筋、皮膚などの多様な臓器において散乱光スペクトルやインピーダンス値の変化を検出しており、当初よりも進んだ部分もある。以上から、総じて実験計画は概ね順調であると判断される。
臓器特異的あるいは病態特異的なラマン散乱光スペクトルの検出には成功しているが、これらの散乱光スペクトルがどのような細胞内物質あるいは病態物質(サイトカイン、線維化物質、脂質など)を反映しているか定かではない。これは生体由来ラマン散乱光のデータベースが存在しないことによる。そこで、生体内物質単体でのラマン散乱光スペクトルのデータベース作成にも着手する。これにより、我々が検出した様々な散乱光スペクトルがどのような物質に由来するかが判明することが期待され、将来的なラマン散乱光の生体応用に大きく貢献することが出来ると考える。現行装置ではインピーダンス値の絶対値を算出することが困難となっている。そこで周波数解析装置やファンクション・ジェネレーターを用いたインピーダンス測定を検討する。コンピュータ・シミュレーションについては、上記の手法でインピーダンスの実測値を得た後に、条件を再度設定し直してシミュレーションを行う予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件)
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