研究課題/領域番号 |
16H05249
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡村 智教 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (00324567)
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研究分担者 |
東山 綾 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 予防健診部, 医長 (20533003)
沢村 達也 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (30243033)
武林 亨 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (30265780)
大久保 孝義 帝京大学, 医学部, 教授 (60344652)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | LDLコレステロール / HDLコレステロール / 酸化・変性脂質 / sLOX-1 / 疫学研究 |
研究実績の概要 |
HDLを上昇させる臨床試験では動脈硬化性疾患の予防効果が得られていない。LDLの動脈硬化惹起作用については単なる血中濃度ではなくその質的な評価が重要であることが指摘されており、これはHDLでも同様と考えられる。本研究ではHDLの酸化・変性修飾に焦点を当てて日本人集団の脂質異常症の特徴を明らかにする。本研究ではリポ蛋白の酸化・変性修飾については内皮のLectin-like oxidized LDL Receptor (LOX-1) の結合能で評価する。そして複数のコホート集団においてこれらの指標と動脈硬化性疾患の発症、頸動脈内膜中膜複合体や冠動脈石灰化、大動脈の弾性など様々なアウトカムとの関連を検証し、同時にHDLの質的な側面に影響を与える生活習慣指標も明らかにする。過去2年間で①変性HDLの測定系の確立と民間検査機関への技術移転(変動係数はintra CVで7%、inter CVで15%程度)、②滋賀県草津市の男性 1009人、神戸市の男女 1011人の変性HDLの測定、③飲酒、喫煙と変性HDLの関連の検討、④変性HDLと冠動脈石灰化との関連の検討、⑤変性HDLとCAVI(大動脈弾性機能の指標)、との関連を順次検討した。その結果、喫煙が変性HDLを増加させること、変性HDLは冠動脈石灰化やCAVIの上昇と関連するが冠動脈石灰化との関連がより明瞭である可能性などが明らかとなった。今年度はCVAIとの関連についての詳細な解析、冠動脈石灰化や喫煙との関連についての論文作成を進めると同時に、複数の地域コホート集団で脳・心血管疾患との関連についてコホート内症例対照研究を進め、ハードエンドポイントと変性HDLの関連について検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は血中ApoA1含有LOX-1リガンドを変性HDLとして測定する新しい測定手法を開発し、民間検査機関への技術移転を進めた。そして滋賀県草津市のコホート集団 男性1009人の変性HDLの測定を実施した。この測定の変動係数はintra CVが7.1% (n=16)、inter CVが14.1% (n=15)であった。変性HDLの平均値は 204±89.7 ng/mlであり、喫煙はHDLコレステロールと負の相関を認めたが、変性HDLとは正の相関を認めた。昨年度(2年目)はその解析を進めてMDCT等で計測した冠動脈石化化との関連をみた。その結果、変性HDLが一標準偏差(89.7 ng/ml)高いと冠動脈石灰化の有病率オッズ比は1.22(95%信頼区間: 1.05-1.42)であった(年齢、喫煙、BMI、高血圧、糖尿病、Non-HDL、HDL、脂質異常症の治療の有無を調整)。神戸研究参加者男性 301人、女性 699人の凍結血清を用いて変性HDLを測定した。この測定の変動係数はintra CVが7.5% (n=16)、inter CVが15.2% (n=13)であり、変性HDLの平均値は男性161±120、女性は149±124 ng/mlであった。このうち大動脈弾性機能の指標であるCAVI(Cardio Ankle Vascular Index)を測定した女性 413人について変性HDLとの関連を検討した。変性HDLの4分位(-83, 84-112, 113-176, 177-)それぞれのCAVIの平均値は、7.4、7.7、7.9、8.0(P<0.001)、高CAVI者の割合(9.0以上)は、7%、6%、15%、17%であった(P= 0.013)。しかしながらこの関連は交絡要因を調整すると消失した。今年度(3年目)は複数の地域コホートにおいてコホート内症例対照研究を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
神戸研究や滋賀のデータの解析を進めて、栄養や運動などより詳細な生活習慣要因と変性HDLの関連を検討してその規定要因をより明確にする。また変性HDLとCAVIの関連、腎機能との関連などを解析し、男性での検討も進める。また冠動脈石灰化と変性HDLの関連については論文作成を進めて研究成果公表の準備を行う。さらに山形県鶴岡市(鶴岡メタボロームコホート研究)、岩手県花巻市大迫地区(大迫研究)でコホート内症例対照研究を実施し、動脈硬化性疾患の症例100例と対照300例の変性HDLの測定を実施する。この検討では、高血圧や糖尿病、喫煙、LDLやHDLを調整した条件付きロジステック回帰分析等の統計手法を用いて、変性HDLと動脈硬化性疾患の発症の因果関係を検証する。また大阪府吹田市(吹田研究)など他の地域フィールドにおいてコホート内症例対象研究の準備を進める。酸化HDLの測定系については、研究期間中も順次改良を進めて行き、より安定して再現性が高い簡便な測定法の確立を目指す。また同じ集団で過去に変性LDLの測定を行っており、その既存データを用いて変性LDLと変性HDLの関連、これらの積と動脈硬化指標の関連についても検討する。
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