研究課題/領域番号 |
16H05259
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
上島 通浩 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80281070)
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研究分担者 |
上山 純 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00397465)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 殺虫剤 / 曝露 / 尿中代謝物 / 健康リスク / 個人差 |
研究実績の概要 |
本課題では、以下の2点の解明を目指す。第1に、曝露量が相対的に多い薬剤散布作業者を対象に、使用薬剤の中から、これまで個人曝露量が測定されていない薬剤軍の尿中曝露マーカーを開発する。また、国内生産・使用量の多い農薬類の網羅的な測定法を開発し、尿中量の個人変動を明らかにする。この散布職域では経年的に調査に参加してきた作業者がいるので、個人の農薬類への曝露状況を過去に遡り、縦断的かつ網羅的に解明する。そして、尿中排泄量の総計から健康リスクの評価を試みる。第2に、尿中検出率・量ともに多い有機リン系殺虫剤について、代謝物量や急性神経毒性機序であるアセチルコリンエステラーゼ活性阻害の関連を調べる。 本年は、有機リン系殺虫剤の尿中曝露マーカーとして世界的に使用されているジアルキルリン酸類に代謝されない、有機リン剤のプロペタンホスについて、曝露マーカー候補物質と考えられるメチルエチルホスホロアミドサイオエート(MEPT)を委託合成し、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて尿中測定法を開発した。薬剤散布作業従事者のうちプロペタンホス散布者8名/非散布者2名の尿を用いて、尿中MEPT濃度の測定を行った。 また、個人内変動の検討に関しては、成人女性に1日2回、5日間連続採取した尿を用いて、代謝物量の級内相関係数(ICC)を検討した さらに、前年に続きWistarラットを用いて有機リン系殺虫剤のジクロルボスを週5日2週間投与し、用量段階別に分けた4群が、各群10匹となるまで継続した。ジクロルボス投与最終投与翌日に24時間尿および動脈血を採集し、脳・肝臓を採取した。尿中ジメチルリン酸はガスクロマトグラフ質量分析計、コリンエステラーゼ活性はVoss & Sachsse法により測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね、予定通りに進めることが出来た。新規の尿中曝露マーカー開発については、既報のジアルキルリン酸測定法を用いてMEPTの分析を行った。測定値の日内・日間変動はそれぞれ16.5-17.5%・10.4-22.6%(n=7)であった。添加回収率は85.5-106.4%となった。検出限界・定量限界はそれぞれ0.59 ng/mL、1.78 ng/mLであった。採尿日の1週間前以内にプロペタンホスを散布している作業者では、尿中MEPT濃度の平均値は13.70 ng/mLであったのに対し、プロペタンホスの使用が無かった作業者では、検出限界値未満であった。また、最終曝露からの経過時間が長くなると、尿中MEPT濃度も低くなる傾向であった。これらのことから、MEPTはプロペタンホスの尿中曝露マーカーとして実際に検出されることが明らかとなった。加えて、今回の分析方法ではジアルキルリン酸との同時分析も可能であるため、有機リン系殺虫剤の生物学的曝露モニタリング手法として有用であると考えられた。尿中曝露マーカー濃度のICCの検討も進捗した。 動物実験ではジクロルボス投与量と尿中ジメチルリン酸量の関係を確認した。尿中ジメチルリン酸量そのものはジクロルボス量に比例して増加したが、ジメチルリン酸排泄率は低下する傾向であった。薬剤量と代謝・排泄能との関連が示唆された。血液(赤血球・血漿)と脳のコリンエステラーゼ活性を測定し、ベンチマークドーズ法を用いて投与量と酵素活性への影響を評価した。コントロール群に対して有意な活性抑制を示した投与濃度は各コリンエステラーゼ活性において5.0 mg/kg/dayであり、本実験における最大無毒性量は1.0 mg/kg/dayとなった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、農薬類の職域散布者および非散布者の採血、採尿による健康調査を行い、本研究で開発した薬剤群の尿中曝露マーカーを含め、尿中代謝物の分析を行う。また、ラットに有機リン殺虫剤を投与した実験については、投与量および尿中ジアルキルリン酸濃度と血中のコリンエステラーゼ活性との関係についてのまとめを行う。調査および実験で得られた結果を用いて、論文を作成する。
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