今年度は、糖尿病患者検体や腫瘍部において発現上昇が報告されているタンパク質であるPED(phosphoprotein enriched in diabetes)に着目した。PEDは2型糖尿病患者の各臓器において、肺を含む様々な臓器で発現が高く、さらにTRAIL誘導性アポトーシスに対し抑制的に働くことが知られている。実際に、肺の腫瘍部および肺癌細胞でのPED高発現と、TRAIL誘導性アポトーシス耐性への寄与が報告されている。TRAIL発現誘導成分とPED発現抑制成分の併用が、実践的ながん予防法としてより効果的であると考えられる。 天然成分ライブラリーを用い、PED mRNA発現抑制成分のスクリーニングを一次スクリーニングとして行うこととした。陽性対照として、既報によりPED発現抑制効果が報告されているHDAC阻害剤のトリコスタチンA(TSA)を用いた。3種類のヒト肺癌細胞を対象に、TSAによるPED発現抑制作用を検討し、最も抑制作用が顕著であったH460を用いることとした。この試験の中で、TSAと同時に比較した化合物XについてもPED発現抑制作用が認められた。この化合物Xについての既報は無く、新規性を有している。一方、天然成分ライブラリー(Selleck)の173化合物を対象にPED発現抑制効果を検証した結果、30種類の化合物に、再現性をもってその可能性が示された。そこで、これらの化合物を対象に、TRAIL感受性増強作用についてWST-8アッセイにて検討した結果、化合物YにTRAILとの顕著な併用効果が認められた。しかしながら、この化合物Yを単独で再購入し、再現性確認試験を行ったがPED発現抑制作用は認められなかった。この化合物Yは、既に別のアポトーシス経路への制御により、細胞は異なるがTRAILとの併用効果は報告されているため、本研究での化合物Yの検討を控えることとした。
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