研究課題/領域番号 |
16H05273
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉木 敬二 京都大学, 医学研究科, 教授 (90217175)
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研究分担者 |
山田 亮 京都大学, 医学研究科, 教授 (50301106)
小谷 泰一 京都大学, 医学研究科, 准教授 (20330582)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DNA多型医学 / マイクロサテライト / STR / 微量混合試料 / continuous model |
研究実績の概要 |
法医鑑識領域で最近対象となるDNA試料は複数人のDNAが混合していたり微量である場合が多い。これらの微量混合試料について、何人のDNAが含まれるか、被疑者等のDNAは含まれるかを評価する必要があるが、現在のDNA検査法(CE法)では15か所のマイクロサテライト(STR)の多型性しか調べておらず、多人数が混合した試料を判定の精度に限界があると考えられる。また、微量混合試料ではアリルが微量なため検出されなかったり、環境因子によるDNA変性のため、結果の評価方法にも確率を用いた工夫が必要となる。このため、本研究では、次世代シークエンス(NGS)の技術を利用した多領域の同時判定法と、DNA量やDNA変性の程度等の多くのパラメータを計算に組み入れた確率的評価法(continuous model)の開発による、微量混合試料の実践的プロファイリング手法の開発を目標としている。 本年度は、CE法におけるcontinuous modelによるソフトウェアを完成させ、その精度について実験的混合試料により検証した。2人から4人までのDNAを様々な量や比率で混合した計72試料を作製してマイクロサテライト15領域のDNA型のタイピングを行い、検査結果を作成したソフトウェアで解析した。その結果、2人、3人の混合試料ではDNA量が微量であっても何人のDNAが含まれるかを高い精度で推定できた。また、実際に試料中にDNAを含む個人では正しくその混入を支持するような確率が得られ、DNAを含まない個人では混入を支持しない結果となった。ただし、4人の混合試料で微量試料の場合は何人のDNAが含まれるか、ある個人がDNAを含むか否かの判断が難しいことも示した。よって、ソフトウェアは高い精度を有しているが、現行DNA検査法は3人の混合試料までが有効な識別の限界であることも示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、continuous modelによる確率的評価のできるソフトウェアを完成できた。また、実験的混合試料の検査結果をこのソフトウェアで解析して、その精度の検証も行うことができた。さらに、ソフトウェアの解析結果から現在のDNA検査法における識別能力の限界を探ることができた。現在、既にこのプログラムのウェブ上の公開の準備が終わり、研究成果の論文もほぼ完成している。一方、NGSを利用したSTRタイピングなどは今年度からの研究計画となるが、確率的評価法の基盤はほぼ完成されているため、NGSの分析結果を適用させる準備は整っており、より円滑な研究遂行が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
完成したソフトウェアによる混合試料のSTR検査結果の解析によって、現在の15ローカスのDNA検査法における確率的評価の限界は3人までの混合試料であることが分かった。4人以上の混合試料における確率的評価の精度を向上させるためには、分析する多型ローカスを増加させる必要がある。そこで、今後はNGSを使ってより多くの領域をタイピングするシステムを作成する予定である。まず、21ローカスについてゲノムデータベースを基にPCRプライマーを作成する。その後、他のSTRキットで対象とされているローカスを加え、目標は合計37ローカスとする。対象STRを含む領域を増幅するPCRプライマーを設計するが、1ローカスあたり増幅領域を長短(約200bpと約400bp)2種類できるようプライマーセットをデザインしてその結果を比較する。NGSではCE法とはことなり市販のキットより短いPCR断片でよいため、変性して断片化したDNA試料からでも検出できる可能性がある。 また、混合試料の関与者のSTR型の組み合わせによる重みづけについてはCEチャートのピーク生成に関わるPCR増幅効率、スタター比、混合比、などの因子をパラメータとみなして、実験的にその値を求めて分布を作成して、観測値から重みづけをする方法を用いたが、これらすべての変数による変化を一つの式の分布で代替して表そうとする方法の併用も検討する。NGSを用いて混合試料を分析すると一つのリファレンス配列に関して多種類のリードが並ぶことが予想されるが、アリルのカバレッジ数の違いをピーク高に換算する工夫をしたソフトウェアを開発する。現状では出力された膨大なリード数の塩基配列情報を整理してまとめるソフトウェアは数多くあるが、混合試料分析用のものは完成されていない。これにより検査データの取り込みから、CM法による尤度比算出がスムーズにできるよう工夫する。
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