研究課題/領域番号 |
16H05275
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
福地 守 高崎健康福祉大学, 薬学部, 准教授 (40432108)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | BDNF / スクリーニング / 伝統医薬品 |
研究実績の概要 |
本年度は、BDNF遺伝子発現を活性化する生薬である人参エキス、および山椒エキスに関する解析を行った。 ・活性成分の同定;ラット大脳皮質ニューロン初代培養系において、人参エキスおよび山椒エキスは、MAPK、CaMK、カルシニューリンなどのカルシウムシグナリング経路を主に介して転写制御因子CREB依存的にBDNF遺伝子転写を活性化することが明らかとなった。そこで、BDNF遺伝子転写を活性化する人参エキスおよび山椒エキス中の活性成分の同定を行った。人参エキスについては、活性成分として有名であるGinsenoside類に着目し、8種類のGinsenosidesのBDNF遺伝子発現誘導活性についてin vitroで評価を行った。しかし、人参エキスと比較して、いずれのGinsenosideも有意な活性は認められなかった。したがって、Ginsenosideは少なくとも単独ではBDNF遺伝子発現には影響を与えないことが示唆された。一方、山椒エキスについては、各種溶媒で抽出した山椒エキスを用いて評価を行ったところ、山椒のメタノール抽出物が最も活性が高いことが明らかとなり、現在、さらなる分画調製を行って活性成分の同定を試みている。 ・神経細胞の形態への影響;人参エキスに着目し、ラット大脳皮質ニューロン初代培養系を用いて、神経細胞の形態変化に及ぼす影響を検討した。その結果、人参エキスは神経細胞の突起の複雑性を増加させることが明らかとなった。 ・脳機能への影響;ICRマウスに人参エキスを1週間投与後、文脈性恐怖条件付試験または新奇物体認識試験を用いて記憶学習の評価を行った。まだ動物使用匹数が少ないため、有意な変化が認められていないが、傾向として記憶学習能がわずかに亢進する予備的な結果が得られた。現在、評価系の最適化を行いながら検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度より研究代表者が異動となったため、異動先で本研究の実験系のセットアップを行った。そのため研究が全体として遅れる結果となった。培養細胞を用いたin vitroのアッセイ系については順調にセットアップを終えた。スクリーニングに必要な培養神経細胞を得るためのトランスジェニックマウスについては、異動先の大学に移設済みであり、現在繁殖を試みている。文脈性恐怖条件付試験や新奇物体認識試験などの脳機能を評価するための行動解析については、異動先の動物実験施設の状況に合わせた実験室の構築が遅れたが、解析に必要な実験機器などの導入は終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
・BDNF遺伝子発現誘導活性を有する漢方方剤のリモデリング;昨年度までの解析により、in vitroでBDNF遺伝子発現を活性化する漢方方剤を2種類同定した。そのうち、特に大建中湯に着目し、構成生薬のリモデリングを行う。大建中湯の構成生薬のうち、人参および山椒にBDNF遺伝子発現誘導活性が認められている。そこで、この2つの生薬をベースとして、構成生薬の加減を行い、より活性の高い大建中湯を開発する。 ・人参エキスおよび山椒エキス中の活性成分の同定;人参エキスおよび山椒エキスの分画を調製し、それぞれの活性の有無を評価していくことで、活性成分の同定を試みる。 ・人参エキスおよび山椒エキスが脳機能に与える効果;記憶学習能の変化を評価可能な行動解析系の最適化を早急に行う。人参エキスおよび山椒エキスをマウスに投与し、記憶学習能の変化の有無を解析する。記憶学習能の亢進が認められた場合、BDNFの関与を検討するため、BDNFシグナルの阻害剤を用いた解析、内在性BDNF発現変化の解析などを行う。
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