研究課題/領域番号 |
16H05280
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研究機関 | 名古屋女子大学 |
研究代表者 |
磯部 健一 名古屋女子大学, 家政学部, 教授 (20151441)
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研究分担者 |
長谷川 忠男 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (10314014)
稲城 玲子 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (50232509)
大橋 憲太郎 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50332953)
西尾 尚美 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (80513457)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | GADD34 / 脂肪肝 / インスリンシグナル |
研究実績の概要 |
GADD34 遺伝子欠損(KO)マウスはWTマウスに比べ、若いマウスはインスリンシグナル伝達系が亢進している。MEF, 培養肝細胞をインスリン刺激し、インスリン受容体、Akt のリン酸化をはじめ下流のシグナル伝達系(mTOR系等)を検索した。また、脂肪酸合成酵素(ACC) のリン酸化を検索した。その結果、若いGADD34KOマウスは脂肪酸合成が亢進していることが判明した。すなわち、若いころはKOマウスは脂肪を蓄積する。多くの実験を雄マウスで行ってきたが、雌GADD34KOマウスは肥満になりにくいにもかかわらず、脂肪肝から肝硬変、肝癌に移行することが判明した。単純脂肪肝からNASHに移行するには肝臓に炎症性変化が生じることが判明した。GADD34がインスリンシグナル伝達系のどの部位に作用するかを明らかにするため、HEK293にGADD34を強発現する系をつくり、分子結合実験で検索する予定で進めた。GADD34強発現ではインスリンシグナルが低下したことからこの系が使えることが判明した。GADD34遺伝子欠損細胞ではインスリン受容体そのもののリン酸化が亢進し、GADD34強発現では抑制されていた。このことからGADD34は他の分子と複合体を形成して、インスリン受容体のリン酸化を抑制している可能性が示唆された。現在その分子機構を検索中である。その中でGADD34とCav-1が結合することからカベオラへのGADD34の関与が推察されているが未だ明らかに出来ていない。老化に伴ってGADD34KOマウスにおけるインスリンシグナル伝達系が抑制の方に傾くメカニズムにパルミテート等の飽和脂肪酸の関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GADD34KOマウスの脂肪肝、NASH ,肝硬変、肝癌への移行メカニズムとGADD34の抑制メカニズムの解明をするために、肝臓細胞の培養の系を確立した。肝臓細胞は長い期間培養できないため、より詳しい検索はMEFを使用した。さらにHEK293に遺伝子移入する系を確立した。ただし、癌細胞と正常細胞でシグナル伝達系や、代謝に違いがある可能性のため、つねに肝臓細胞に戻って確認することにした。これまで、雄マウスで検索していたところ、GADD34KO雌マウスでは肥満にならずに脂肪肝、肝硬変、肝癌、インスリン抵抗性になることが判明した。このことからインスリン抵抗性は脂肪組織からのTNFa 等によるもの以外に肝臓に直接原因がある可能性が出てきた。GADD34KO,WTマウスより取り出した肝臓細胞にパルミテート等脂肪酸で刺激して、インスリンシグナル伝達系や代謝系を生化学的に解析することを進めている。GADD34の抗体、あるいはインスリン受容体のリン酸化抗体は免疫染色で細胞内染色が可能になった。インスリン刺激すると、GADD34, インスリン受容体のリン酸化抗体の細胞内局在が蛍光顕微鏡で観察できるようになったため、他の抗体も含めたダイナミックな変化を検索することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
GADD34がCAV-1等と複合体を形成してインスリン受容体そのものの脱リン酸化をおこなっていることがほぼ確実になったが、さらに詳細な分子メカニズムを最後の研究年に明らかにする。GADD34KOマウスは高脂肪食で脂肪肝を誘導するが、この中には糖質,蛋白質が含まれていて、脂質以外の成分の影響が考えられた。これら栄養素の関与を今後、脂肪のみ、糖質のみの食事を投与したり、蛋白質や微量元素、ビタミンの影響も含めて投与実験、培養実験を進め、その生化学的変化を追うことで、脂肪肝やインスリン抵抗性の本質に迫るとともに、GADD34 の脂肪肝や糖尿病、腎臓疾患を抑えるメカニズムの解明を進めていく。そのためにはwestern blotting、immunoprecipitation, 共焦点顕微鏡による解析が必要になる。磯部の名古屋女子大学にwestern blotting の装置一式揃え、分担研究者の長谷川の名古屋市立大学とともに西尾と名古屋女子大学の学生が中心となって、これらの研究を進めてきたが、西尾が埼玉大学に移動することになったため、研究の中心を埼玉大学に移動させる予定である。研究体制が整うまで、西尾は名古屋女子、名古屋市立大学に来て研究を継続する。GADD34を含めたERストレスの病態形成における生化学的研究は培養系で岐阜大学の大橋が引き続き継続していく。腎不全の形成におけるERストレスの関与は稲城が東京大学で継続して順調に仕事が進んでいる。
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