研究課題
本年度は「Atoh1系譜追跡レポーターマウス」の樹立を行い、これを用いた可塑性分泌型腸上皮の脱分化可視化モデルを用いた動態解析を行った結果、以下の様な成果を得ている。1. 恒常状態においてAtoh1+細胞が幹細胞性を再獲得し得るか否かについて、作成したレポーターマウスを用いた解析を行った。この結果、恒常状態においても一定の頻度でAtoh1+細胞の幹細胞性獲得の指標となるクローナル・リボンの形成がみられた。同リボンの形成頻度は小腸よりも大腸粘膜でより高い頻度で見られ、大腸Atoh1+細胞がより高い頻度で恒常的に可塑性を発揮している可能性が考えられた。2. 炎症粘膜の再生過程におけるAtoh1+細胞由来脱分化細胞の動態を解析するため、レポーターマウスを用いたDSS腸炎モデルを作成し、解析した。その結果、腸炎による損傷から再生する過程においてAtoh1+細胞はより多くのクローナル・リボンを形成することにより潰瘍の修復に積極的に参加していることが明らかとなった。この際に増加するAtoh1+細胞の遺伝子発現プロファイルについてマイクロアレイを実施することにより明らかとしており、これにより幹細胞性の再獲得を促す複数の候補シグナル経路が同定されている。3. 消化管腫瘍におけるAtoh1+細胞由来脱分化細胞の動態を解析するため、レポーターマウスを用いたAOM-DSS腫瘍モデルを作成し、解析した。その結果、同腫瘍内のAtoh1+腫瘍細胞がクローナル・リボンを形成し得ること、同リボン内にLGR5・CD44等の腫瘍幹細胞マーカーを共発現する腫瘍細胞が含まれること、が明らかとなった。同結果から、AOM-DSS腫瘍内においてAtoh1+腫瘍細胞が腫瘍幹細胞の性質を獲得している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初計画におけるモデルマウス作成と動態解析は終了しており、これを通じたAtoh1+細胞の脱分化・幹細胞性獲得を制御する機構の解明につながる知見も既に得られていることから、当初計画に沿って概ね順調に進捗していると考えている。
本年度計画は概ね順調に推移していることから、当初計画に沿い、次年度以降はオルガノイド培養技術を用いたAtoh1+細胞の脱分化再現系の構築・解析を進める方針である。
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Data in Brief
巻: 10 ページ: 551-556
10.1016/j.dib.2016.12.045
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 482 ページ: 1296-1303
10.1016/j.bbrc.2016.12.031