研究課題
本研究は申請者らがこれまで見出してきた「腸管組織の恒常性維持に必要な免疫応答の調節は腸管上皮細胞の適切な抗原処理によって制御され、その破綻が粘膜における炎症の惹起と遷延化の本質となる」という独自の概念や知見を基盤として、腸管上皮細胞による免疫応答の調節機構について着目している。その結果、本研究では当該研究期間に以下のような成果が得られた。1)野生型C57BL6マウスの大腸組織から上皮細胞を単離し、長期培養系を樹立させた。2)この大腸上皮細胞をTNFの存在下で培養し、さらに継代を継続できる条件を見出した。3)ここに阻害薬によって様々な条件で蛋白分解系を阻害しつつ、大腸上皮細胞の継代培養を継続できる条件を検討しつつ現在解析中である。4)これらのうちある条件下での培養大腸上皮細胞から蛋白質を抽出し生化学的解析を行った結果、TNF受容体やMLCKの発現が上昇していることを確認した。5)一方、これらの培養大腸上皮細胞にレトロウイルスベクターGFP-RVおよびDsRed-RVを用いて遺伝子を導入しつつ、継代培養を継続できる条件を確認した。これらの研究成果は生理的な条件下における正常腸管上皮細胞の抗原提示機能をin vitroで詳細に解析できる可能性、またその条件下における免疫学的解析も可能であることを示唆する。さらに現在、このメカニズムが関連すると考えられるその他の遺伝子発現に着目し、その解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
腸管粘膜の免疫調節機構は上皮細胞とリンパ球のクロストークが根幹にあり、上皮細胞の抗原提示能がその中枢を担っていることに着目しているが、今回マウス大腸組織由来の正常上皮細胞培養系を用いたin vitroにおける蛋白分解阻害解析系を樹立できつつあること、およびその解析結果から新たな現象を見出すことが出来たことは大きな成果であるといえる。
次年度は細胞間クロストークにおけるこの分子メカニズムに着目し、これをさらに詳細に解析するためにin vitroおよびex vivo実験系ではウイルスベクターによる培養細胞への遺伝子導入、分子生物学的解析、またin vivo実験系では遺伝子改変動物における疾患モデルの誘導とその臨床および病理学的解析、フローサイトメトリー、サイトカイン測定、また免疫組織染色などを行う予定である。
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