研究課題/領域番号 |
16H05290
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
河田 則文 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (30271191)
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研究分担者 |
元山 宏行 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 病院講師 (00573601)
松原 三佐子 (佐藤) 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任助教 (00635120)
LE THUY 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任助教 (10572175)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 星細胞 / サイトグロビン / 線維化 / 炎症 / 発がん / プロモーター |
研究実績の概要 |
肝臓では星細胞のみに発現するサイトグロビン(Cytoglobin, Cygb)の生体内機能を明らかにする目的でノックアウトマウス(Cygb KO)を作出した。ジエチルニトロサミン(diethylnitrosamine, DEN)投与モデルやコリン欠乏食(CDAA食)を投与する脂肪性肝炎モデルにおいて、Cygb KOでは野生型マウスに比較して、有意に肝がん発生が増加した。Cygb KOマウスの背景肝ではマクロファージや好中球の浸潤が高度であり、また、線維化反応の増強が見られた。同時にTGF-β、collagen 1A1、TIMPの発現増強が見られた。Cygb KO星細胞はプライミングを受けており、α平滑筋アクチン(αSMA)発現やサイトカイン、ケモカインmRNA発現も増強した。さらにこれらの星細胞はp16, p21やγH2AXのような老化細胞マーカーを発現した。以上からCygb欠損星細胞はsenescent-associated secretary phenotype (SASP)を呈することがわかった。一方、内在性のCygbプロモーター活性でmChery標識されたCygbを過剰発現させるトランスジェニックマウス、HSC_Cygb_mCherryマウス、を作出した。本マウスにCDAA食や胆管結紮モデルを作製すると、肝臓の炎症、線維化反応は減弱した。 一方、fibroblasts growth factor 2(FGF2)がヒト星細胞でCygbを誘導することが判明し、同プロセスでαSMAやコラーゲン発現が低下することが判明した。 以上の結果から、Cygbは星細胞の恒常性の維持に重要であり、その欠損は星細胞をプライミングさせ、SASP様にフェノタイプ変化させることが誘因の1つとなり、肝臓の臓器全体における炎症、線維化の増強を介して発がんを促進させる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSC_Cygb_mCherryマウスではCDAA投与による肝線維化モデルにおいて明確に線維化反応が軽減された。その原因としてCygbを過剰に発現する星細胞は活性化反応が軽減された。この結果について現在論文を執筆している。また、同マウスに胆管結紮、四塩化炭素やジエチルニトロサミン投与で肝線維化や肝発がんを誘導するモデルにおいてもそれぞれの病態は野生型マウスに比較して有意に軽減された。これらには酸化ストレスの軽減関与が推測され、それらも論文化する予定である。 一方、FGF2が活性化星細胞をCYGBの誘導を伴いながら脱活性化させるという興味深い事実について詳細に検討した。まずFGF2により星細胞内で活性化される細胞内シグナルカスケードを探索した結果、JNKがリン酸化された。JNK阻害剤を用いるとCYGB発現誘導は阻害された。次にJNK下流のc-Junについて検討すると、FGF2刺激によりc-Junリン酸化が時間依存的に誘導された。ベクターを用いてc-Junを星細胞内で過剰発現させるとCYGBが誘導され、星細胞活性化マーカーのαSMAが発現低下した。逆にsi c-Junでc-Junを発現低下させるとFGF2によるCYGB誘導は阻害された。次にCYGB遺伝子のプロモーター領域にc-Jun結合領域が存在することをChIPアッセイで確認した。最後にFGF2のin vivo効果を検討するために、胆管結紮により線維化を生じさせたマウスに結紮2週間後にFGF2を2回腹腔内投与したところ組織の線維化反応、星細胞の活性化、コラーゲンI mRNA発現などは著明に抑制された。以上より、FGF2はJNK - c-Jun経路を用いてCYGB誘導を伴いながら星細胞を脱活性化させ、線維化反応を軽減させることが示唆された。以上の成果をJ Biol Chem 2017;292:18961に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
Cygbノックアウトマウス且つトランスジェンックマウスを用いて4種類の肝炎症・線維化モデルマウスを作製し、DENによる発がんについても検討したため、ヒトの病気に近いモデルでの検討をほぼ終了した。 また、ヒトの肝癌組織におけるサイトグロビン発現の様態や、遺伝子変異についてもデータを得られつつあり、さらに研究を継続する予定である。また、FGF2のようにCygb発現の制御機構を遺伝子、転写プロモーターレベルで解明しつつあり、FGF2とは全く正反対にTGFβがCygb発現の負の因子であることが判明しつつある。 得られた情報を基にCygbにまつわる分子で星細胞の活性化を抑制、あるいは、活性化星細胞を脱活性化させる技術開発を行っており、有望な分子が見つかりつつある。以上の研究を推進する予定である。
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