研究課題/領域番号 |
16H05292
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡辺 光博 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 教授 (10450842)
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研究分担者 |
横山 葉子 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任助教 (10617244)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 消化器 / 胆汁酸 / 代謝 / 腸内細菌 / 糖尿病 / 肥満 |
研究実績の概要 |
我々は胆汁酸組成と腸内細菌の密接な相互作用による胆汁酸シグナル応答性の関係解明を推進することにより、肥満・糖尿病をはじめとする生活習慣病発症原因を宿主遺伝的背景を含め解明することにより、人類に新たな個別化予防・治療戦略を提供することを目的に研究を行っている。これまでの我々の研究により高脂肪食負荷肥満・糖尿病モデル動物に胆汁酸を混餌投与すると肥満などの糖尿病疾患が抑制され、さらに胆汁酸投与による肥満・糖尿病抑制効果は マウスの種差が認められることが明らかにされた。昨年度は胆汁酸応答性の異なる2系統のマウスに胆汁酸と抗生物質を投与した飼育実験を実施し、体重や臓器質量の増加や経口糖負荷試験(OGTT)やインスリン負荷試験(IP-ITT)などの糖尿病の指標となる試験においても、系統間で異なる影響が観察された。今年度はより詳細な遺伝子解析や肝臓中の脂質の測定に加えて、肝臓及び糞便中の胆汁酸組成の解析を行った。肝臓中の遺伝子解析では、胆汁酸代謝と脂質・コレステロール代謝系の遺伝子において大きな差異が確認され、中でも胆汁酸の原料となるコレステロールの代謝系においては、胆汁酸を負荷した際の代謝制御が系統間で大きく異なる興味深い結果が得られた。また、肝臓と糞便中の胆汁酸量について検討したところ、まずは総胆汁酸量においても胆汁酸組成においても系統間で大きな差異が確認され、この差異が胆汁酸による肥満抑制効果の有無に大きく関連していると考えられる。加えて、胆汁酸による肥満抑制効果が確認されたAマウスの腸内細菌叢を抗生物質により変化させたところ、肥満抑制効果が有意に低減した。これは腸管において胆汁酸がある腸内細菌によって代謝されることで別の胆汁酸に変化し、シグナル伝達を介して宿主の肥満抑制に関与していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の通り、網羅的な遺伝子解析や胆汁酸解析などを行い、腸内細菌層叢の解析においても現在進行中である。以前行った予備検討との再現性も取れており、予定通りおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえると、2種系統マウスの胆汁酸応答性の違いには、遺伝的背景による胆汁酸・脂質コレステロール代謝系の差異に加えて、体内の胆汁酸プール量やその組成によるシグナル伝達の差異が大きく関係しており、この後者には胆汁酸を代謝し変化させる腸内細菌の存在が密接に関連していると言える。本年度は、前年度実施したマウスにおける基礎実験サンプルの糞便中および肝臓中胆汁酸組成と腸内細菌叢、DNAマイクロアレイ結果、肝臓中のメタボライト測定から、腸管-組織間ネットワークにおける胆汁酸-腸内細菌相互作用の解析を行う。近年、申請者の研究所では腸内細菌叢とトランスクリプトーム、メタボロームのデータベース構築が進んでおり強力な解析ツールとなる。バイオインフォマティックス解析では、2次胆汁酸合成酵素や脱抱合酵素を有する腸内細菌抽出に注力し、胆汁酸-腸内細菌叢相互作用を明らかにする。さらに、腸管内で生成された約30種類の胆汁酸による腸管内の遺伝子発現への関与や、腸管からの2次的な胆汁酸シグナル伝達分子を介し、肝臓や末梢組織にどのような影響を与えているのかを中心に解析する。胆汁酸は門脈を介し約95%は腸肝循環により肝臓に戻り、また腸管から分泌される2次的胆汁酸シグナル伝達分子も門脈を介するため、肝臓は腸内細菌-胆汁酸相互作用を第一番目に受け、最も重要な臓器といえる。肝臓での検討後、必要に応じて肝臓以外の代謝に重要な末梢組織との相互関係の検討を行うため関連する末梢組織のDNAマイクロアレイ解析も同時進行し、適宜、胆汁酸-腸内細菌-組織間相互作用予測のためのデータとし解析の精度を向上させ、2系統マウスにおける胆汁酸応答性による生活習慣病発症差異を明らかにし、生活習慣病個別化医療のための提言を行う。本研究結果の一部は、代謝関連国際学会での発表を予定している。
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