肝臓でコレステロールから合成される胆汁酸は、生活習慣病を予防する手段として注目されているが、近年の研究により胆汁酸は単に脂質の消化吸収を促進するだけでなく、生体内シグナル分子として全身の代謝を調節していることが明らかになった。高脂肪食誘発性の肥満や糖尿病は高脂肪食に胆汁酸を混餌投与することで抑制できることをこれまで報告してきたが、マウスの系統差に違いがあることを見出し、A、Bの2系統のマウスを使用し、胆汁酸による肥満・糖尿病抑制効果を検討した。その結果Aマウスでは胆汁酸の効果が認められたのに対しBマウスでは認められず、肥満・糖尿病発症差異には胆汁酸代謝が密接に関連していることが示唆され、約30種胆汁酸組成-腸内細菌菌叢-胆汁酸シグナル応答性の相互関係解明を推進し、新たな研究領域を創生し、人類に新たな個別化予防・治療戦略を提供することを目的として本研究を行った。胆汁酸応答性の異なる2種系統マウスに胆汁酸を投与した際の代謝の差異に加えて、腸内細菌の影響を解析する目的で、グラム陽性菌、グラム陰性菌にそれぞれ作用する抗生物質を投与し腸内細菌叢を変化させ、胆汁酸組成、マイクロアレイ、腸内細菌叢解析などオミックス解析行った。その結果、2種系統マウスの胆汁酸による肥満・糖尿病抑制効果の有無には遺伝的背景による胆汁酸・脂質・コレステロール代謝の差異に加え、腸内細菌から代謝される胆汁酸組成の変化がそれぞれ相互的に作用し、複雑に影響を与えていることが明らかになった。
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