本研究では、心血管疾患を中心とする生活習慣病の発症機序について、システム間連携の観点から全く新しい理解を進めるとともに、新規治療標的の同定を進めることを目的とする。これまでに心臓が圧負荷に対して脳―心-腎の連携によって恒常性を維持していること、このメカニズムの破綻が心不全を惹起することを見いだした。また、肥満においては内臓脂肪組織に始まった慢性炎症が他臓器へ波及・拡大することが動脈硬化や2型糖尿病発症に重要であることを見いだした。本研究では、心血管疾患を中心とする生活習慣病の発症・進展機序について、多システム間連携による恒常性の維持とその破綻の観点からその分子機序を明らかにすることを目指した。脳・神経系による心臓・腎臓連携の機序の解析として、神経系のシグナルによるマクロファージへの作用機序の解析を進めた。β受容体による制御機構について検討を行い、β受容体の有無によるエピゲノムとトランスクリプトームの差異をRNA-seq、ATAC-seq法により解析し、β受容体の下流遺伝子を同定した。また、神経とマクロファージの位置関係について、インディケータマウスと透明化を用いて検討した。心臓の組織マクロファージの中には、自律神経周辺に集積しているものと、心筋内に散在しているものがある。この結果から、心臓組織マクロファージの中でも一部のサブポピュレーションが特にβ受容体シグナルと関連している可能性が示唆された。また、心臓マクロファージが分泌するAREGの役割について解析を進めた。AREGがEGF受容体シグナルを活性化すること、また、心筋細胞の代謝を制御することを見いだした。
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