研究課題
本研究では、遺伝性心筋症および遺伝性不整脈の病因となる遺伝子異常の同定と、それによる病態形成機序の解明を進めるとともに、心不全・不整脈病態の治療・予防戦略を策定することを目的とする。本年度は以下の成果を得た。既知の原因遺伝子に変異がない心筋症多発家系で原因候補遺伝子(ゲノムメチル化関連遺伝子)を特定し、その他の心筋症患者にも別の変異を見出した。これらの変異を有する患者群において、共通してメチル化が大きく異なっているローカスを同定した。また、ミオシン軽鎖の脱リン酸化酵素(PP1M)のスモールサブユニット(M21)を高発現するトランスジェニックマウス(M21-TGM_H)は心筋線維化、心不全、洞性徐脈、房室ブロックを来たすが、M21 の発現量が低い系統(M21-TGM_L)では心不全や不整脈は観察されない。そこで、M21-TGM_L とM21-TGM_H の心臓における網羅的な遺伝子解析を行い、特異的に発現量が異なるするターゲット遺伝子群を同定した。とりわけ、心筋リモデリングに関わる遺伝子群はM21-TGM_Lにおいても発現が亢進することを確認した。このことは、M21の発現が前肥大状態をもたらすことを示唆する。一方、洞性不整脈多発家系について、MYPN-NBLT 連関に関わるI 帯タンパク遺伝子に変異を見出しているため、ラット心筋細胞を用いた機能解析を行い、当該遺伝子の変異はアポトーシスの亢進をもたらすことを見出した。これらとは別に、心筋症関連67原因遺伝子における変異検索システムを開発し、家族歴がある心筋症患者のみならず、家族歴のない心筋症患者でも、高率に心筋症関連遺伝子群に変異が見出された。さらに、網羅的関連解析から虚血性心疾患関連遺伝子として同定したMKL1遺伝子を高発現するトランスジェニックマウス(MKL1-TGM)を作製し、その機能異常について検討している。
2: おおむね順調に進展している
予定した計画通りに進捗している。
心筋症関連原因遺伝子の網羅的変異スクリーニングシステムを開発しており、これを用いて、既知の原因遺伝子に変異がない心筋症患者集団を特定しているが、これらを対象に候補遺伝子解析あるいは網羅的エクソーム解析を実施することで、新たな原因遺伝子を同定する。一方、原因不明の不整脈多発家系を対象としたエクソーム解析を実施しており、新たな原因遺伝子の候補の探索を進める。さらに、虚血性心疾患関連遺伝子として特定したMKL1遺伝子がいかなるメカニズムで病態形成に関わるかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
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