研究課題
自律神経によって心臓をはじめとする主要器官の機能が制御されている。とりわけ交感神経末端から分泌されるカテコラミンは、心筋膜表面上のアルファないしベータカテコラミン受容体に結合して、G蛋白質を活性化する。活性化されたG蛋白質は下流の酵素活性を制御することにより心機能を強力に制御することが知られている。カテコラミンの標的酵素であるアデニル酸シクラーゼは、細胞内cAMPを産生する。このセカンドメッセンジャーは、古典的にはPKAを活性化させるが、近年では、新規G蛋白調節因子であるEpacが第二の標的因子として注目を集めている。そこで、このEpacの役割を、古典的な第一因子であるPKAと比較しながら、心筋細胞におけるcAMPシグナルネットワークの構成因子として、心機能の調節と心不全発症の観点から、他の液性因子とともに網羅的に検討した。平成29年度の研究では、ベータ受容体刺激と心機能制御に対してアデニル酸シクラーゼの果たす役割を報告すると共に、アデニル酸シクラーゼの阻害剤を使用した知見について論文発表をおこなった。本研究では、心臓型アデニル酸シクラーゼの選択的な阻害剤が、心房細動に対してどのような予防治療効果を示すことができた。具体的には、心臓型アデニル酸シクラーゼの阻害剤によって、RyR2のリン酸化を顕著に抑えることができることを見出した。これによりSRからのカルシウムのリークが減少し、不整脈のトリガーが減少することが原因と考えられた。さらにカテコラミンによって誘発された酸化ストレスの低下を達成することができた。これは中長期的にみても、心筋の生存性を向上させる効果を持つと予測された。また、我々の方法では、既存の交感神経遮断剤等にみられる心機能抑制を回避することができるのが最大の特徴である。本研究によってcAMPシグナルネットワークの心臓における役割を最新の知見として明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度においては、心臓型アデニル酸シクラーゼの阻害剤が、心機能を低下させることなく、心房細動の発生を抑えることができることを論文発表した(Pflugers Arch. 2018 Feb 1)。本実験に使用したモデル動物は、我々が開発した心房細動マウスモデルである。これまでの心房細動マウスモデルでは、経食道的に電気ペーシングを行い、心房細動を誘発するが、不整脈の持続時間が極めて短く、数秒程度であることが問題であった。そこで我々はこのモデルを改良し、カテコラミン刺激を加えることにより、数分程度にまで心房細動の持続時間を延長させることに成功した。心臓型アデニル酸シクラーゼの阻害剤によって、RyR2のリン酸化を顕著に抑えることができることを見出した。これによりSRからのカルシウムのリークが減少し、不整脈のトリガーが減少することが原因と考えられる。さらにカテコラミンによって誘発された酸化ストレスの低下を達成することができる。これは中長期的にみても、心筋の生存性を向上させる効果を持つと予測された。これらの所見から、cAMPシグナルネットワークの心臓における役割を最新の知見としてアップデートすることができた。
カテコラミンの標的酵素であるアデニル酸シクラーゼは、細胞内cAMPを産生する。このセカンドメッセンジャーは、古典的にはPKAを活性化させるが、近年では、新規G蛋白調節因子であるEpacが第二の標的因子として注目を集めている。そこで、このEpacの役割を、古典的な第一因子であるPKAと比較しながら、心筋細胞におけるcAMPシグナルネットワークの構成因子として、心機能の調節と心不全発症の観点から、他の液性因子とともに網羅的に検討した。本研究によってcAMPシグナルネットワークの心臓における役割を最新の知見として明らかにすることを目的とする。平成29年度の実験結果から、アデニル酸シクラーゼの直接の阻害剤を使用した場合に、どのような心機能変化が誘発されるのかの検討を行い、さらにこれに関連して下流酵素であるEpacの阻害剤を使用した場合の機能変化と比較した。予備実験では、上流のアデニル酸シクラーゼの阻害と、下流のEpacの阻害に共通して心房細動治療効果がみられることが判明した。そこでこれらの知見をさらに発展させるために、次年度においては、下流のEpac阻害剤の心機能に及ぼす影響を、分子レベルで検討を進めていく。とりわけカルシウムシグナルの変化や細胞小胞体レベルにおけるカルシウムのバランスにEpacの分子活動性がどのような効果を示すのかを検討する。検討にあたっては、培養心筋細胞を用いるだけでなく、既存の不整脈マウスモデルを使用することにより多方面における比較検討が可能になると考えている。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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