研究課題
心腎連関は心臓疾患と腎臓疾患が高率に合併し、心臓と腎臓の機能異常がお互いに一方の機能を増悪し、悪循環を形成する疾患概念であるが、その分子機序は、十分には解明されていない。我々は、慢性腎臓病では、PLGFの産生が亢進することと、PLGF-Flt-1系に拮抗的に働く可溶性Flt-1アイソフォーム(sFlt-1)が産生低下するために、PLGF/Flt-1系が活性化して、腎臓病に合併する動脈硬化や心肥大/心不全を増悪させることを明らかにしてきた。本年度は、sFlt-1特異的ノックアウトマウス(sFlt-1KO)を慢性腎臓病に共う心血管病易発症モデルの一つとして利用し研究を遂行した。sFLT-1KOに大動脈縮窄(TAC)を作成すると、野生型(WT)と比べて、心不全を高率に発症し、心肥大、心臓線維化より顕著であることを認めていたが、そこにはPLGF/Flt-1系の下流でMCP-1が過剰に発現し、心臓の形質発現に関与していることをMCP-1中和抗体を用いて確認した(この結果はHypertension 2017;135:659に発表した)。また、腎不全にともなう心肥大や心不全を発症しているヒト心臓の左室生検組織を用いて、MCP-1の発現が亢進していることを確認し、PLGF/Flt-1/MCP-1と繋がる情報伝達系が、腎臓病にともなう心疾患発症に関与していることを示唆する所見を人でも確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初のsFlt-1KOでの心室リモデリングをきたす機序の解明は、TAC処理を実施したsFlt-1KOではPLGF/Flt-1系の下流でMCP-1が活性化し、その発現が心筋細胞で亢進していることをwestern blot法、PCR法、免疫組織学的手法を用いて確認した。WTでは同様のTAC処理にてもMCP-1の発現亢進は観察されず、このMCP-1の発現亢進がsFlt-KO特異的であることを確認した。また、MCP-1中和抗体を投与すると、sFlt-1KOでTAC処理をした時に観察される、心肥大、心線維化、左室収縮機能の低下、心不全死という一連のフェのタイプが明らかに抑制され、PLGF/Flt-1の下流でMCP-1が重要な働きを担っていることが確認できた。Long non-cording RNA(lncRNA)の実験も順調に進行している。この結果に関しては現在特許申請を考慮中であり、この報告書への記載はこれだけにとどめさせていただきます。
今後はlncRNAの研究への比重が増えて行くと思われる。In vivoでのこのlncRNAの機能も確認できているが、現在は機能ドメインの詳細な同定、作用発現機序(結合蛋白の同定も含めて)を解明する。我々が2007年より連続症例を前例登録している、心不全や急性心筋梗塞データベースであるNARA-HFあるいはNARA-AMI臨床サンプルを用いて、MCP-1、PLGFの臨床的意義の解明をさらに実施する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Hypertension.
巻: 68 ページ: 678-687
10.1161/HYPERTENSIONAHA.116.07371.
http://www.naramed-u.ac.jp/~1int/index.html