肺動脈性肺高血圧症Pulmonary Arterial Hypertension(PAH)は、肺動脈の内膜や中膜が肥厚して肺動脈圧が上昇し、右心不全を起こす生命予後不良の指定難病である。PAH難病登録患者数は全国約3500名で、そのうち約3/4が原因を特定できない「特発性PAH(idiopathic PAH: 以下IPAH)」と鑑別される。2000年に染色体2q33に存在する”2型骨形成タンパク受容体(以下BMPR2)遺伝子”の変異が発見された。しかしながら、BMPR2遺伝子異常はIPAHの約25%、家族性PAHの中でも70%程度である。ゲノムワイド関連解析や次世代シークエンサー(以下、NGS)での変異解析や発現解析が普及しつつあるが、未だにBMPR2に次ぐ新規発症関連遺伝子やepigeneticな制御は発見に至っていない。即ち、IPAHの過半では原因を特定出来ていない。 多施設共同体制にて、肺高血圧症バイオバンクを構築し、PCR-ダイレクトシークエンス法による遺伝子変異解析系、またエキソン欠失に注目して、MLPA法による解析を進めた。 BMPR2遺伝子変異は日本人患者においても海外文献報告と同頻度のIPAHの約25%に見出した。さらにエキソン欠失ではAlu配列を介する非対立遺伝子間相同組換と非相同組換の二種の機構が存在することを見出した。また、BMPR2遺伝子異常を有していないPAH患者のDNA検体多数を用いて全エキソーム解析を実施した。超長寿者と患者集団の比較という独自の戦略を用い、血管疾患に共通する可能性の高い感受性遺伝子RNF213のHot Spot変異をIPAH患者に高頻度に見出し、原因遺伝子と感受性遺伝子の相乗作用による発症という仮説に至った。これを検証するためBMPR2とRNF213の両者にHot Spot変異を持つマウスを作製し、in vivo実験とin vitro実験の両方からの集学的研究を継続している。
|