研究課題/領域番号 |
16H05305
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
牧野 伸司 慶應義塾大学, 保健管理センター(日吉), 准教授 (20306707)
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研究分担者 |
藤田 深里 神奈川大学, 理学部, 助教 (60633550)
渡辺 秀人 愛知医科大学, 付置研究所, 教授 (90240514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小型魚類 / 順遺伝学 / 血管腔形成 |
研究実績の概要 |
我々は化学変異剤のENUを用いて、心臓や血管系の空間形成に異常をきたす変異体を樹立し、原因となる細胞外マトリックスを発見した。確立されたlht変異体という心臓や血管などの空間形成がなされない変異体は、世界で最初のヴァーシカンに点変異を持った動物モデル個体である。どのような未知の生命現象も可視化することにより、その理解に格段の進歩をあたえる。心臓や血管が外部から生きたままで可視化できるメダカと、蛍光蛋白を用いたトランスジェニック魚を組み合わせ、体外から心臓血管形成の評価が定量的に可能とした。蛍光蛋白の色を変えるシステムを確立することにより、再現性の観点からも圧倒的に秀でた研究システムを構築した。メダカゲノムの結果より、メダカとヒトとの間は80%以上の遺伝子を共有していること、心筋・血管系を構成する遺伝子では95%以上のDNA配列がヒトとの間で保存されていることより、小型魚類を用いて得られた心室・血管形成の知見は、ヒトでも共通することがわかった。心血管系の複雑な三次元構造は、異なる前駆細胞の分化・増殖・移動によって達成され、心臓は少なくとも4種類の前駆細胞から分化する細胞群によって構成されることが確認された。正常な循環器器官形成のためには、前駆細胞群が移動するための細胞外マトリックスが必要であることも生体内で確認した。メダカ変異体を用いて可視化した4次元的観察によって、中隔欠損症と肺高血圧症が合併する機序を前駆細胞の移動の点から解明した本研究により解明された全く新しい機序は、動脈硬化やがんの転移時の血管形成に対する創薬のターゲットになり、長期的な成果として創薬につながる可能性が高い。動脈硬化に対してのまったく新しい概念からの有効な薬の開発への成果を今後期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
VE cadherin Cre, Tbx1 Cre,SM22α Cre, CMV Cre, マウスの表現型から、各心筋・血管前駆細胞の移動の異常が心臓と血管の異常につながると考えられた。しかし予想されたような強い表現型が CMV Cre以外のマウスでは得られなかったため、出生後の死因が心臓、肺、または血管にあるのかはマウスのシステムを用いた系では解明できなかった。予想しない結果についてはメダカで異常を可視化すること、ゼブラフィッシュなどの他の種間で比較検討すること、臓器の解析範囲を広げることにより、各前駆細胞群に対する役割を探索している。 またバーシカンは分子量が大きく作用点の多い複雑な分子であるため、得られた結果が容易に解釈できなかった。そのためコンドロイチン硫酸鎖合成酵素ノックアウトマウス、ADAMTSノックアウトマウスを用いて心血管系の解析を追加で行い、現在までに得られている研究結果と比較・検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに同定された心臓・血管形成の遺伝子変異の多くは転写因子、増殖因子の機能異常であった。今後の研究ではversicanの点変異により、血管・心臓腔形成に必須の前駆細胞群の移動の異常を明らかにして、細胞外マトリックスの分泌が障害されることによって心臓の中隔の形成異常と肺高血圧が発症する分子メカ ニズムを同時に解明していく。具体的には、前駆細胞の蛍光蛋白トランスジェニック魚とlht変異体を掛け合わせて4次元的に血管前駆細胞の移動の異常を可視化する。さらに愛知医科大学の渡辺教授との共同研究でヴァーシカンがADAMTSによって分解されたことによって肺血管・心室腔形成異常生じる機序を明らかにする。種を超えての共通の機序であることを証明するためには、ゼブラフィッシュの系も用いて実験をすすめる予定である。
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