本研究では、消化管と循環器系の中枢を介した臓器間ネットワーク機構に焦点をあて、主に消化管ペプチドの多様な作用の解明を目的とする。 1.迷走神経を介する循環制御ネットワークに関与する新規ペプチドの探索については、迷走神経節において生理的負荷で変動するペプチド性リガンドが予想されるオーファンGタンパク質共役型受容体を3種類選択した。これら受容体の安定発現細胞株にて、ラットやブタの組織抽出物を用いて、受容体発現細胞のインピータンス変化を指標としてリガンドスクリーニングを行った。受容体特異的なインピータンス変化を疑わせる分画を認めたが、最終活性物質の精製には至っていない。 2.ニューロメジン類およびその関連ペプチドの機能解明については、ラット脳から単離・構造決定したNMU前駆体タンパク質から産生されるneuromedin U precursor-related peptide(NURP)と命名した新規ペプチドについて、ラットへの中枢投与にて、行動量やエネルギー消費、心拍数、背部体温を上昇させることを明らかにした。また、その一部は交感神経活動を介していることを示した。 3.循環器およびその関連疾患モデル動物における生理活性ペプチドの治療応用の検討については、循環器疾患の基盤となるエネルギー代謝調節に関わる因子として、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の有する血管機能障害改善作用に着目し、肥満・糖尿病と関連した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)におけるCNPの作用を検討した。CNPを血管内皮細胞特異的に過剰発現させたマウスにおけるNASHモデルでは、血液脂質マーカーや肝機能が改善し、また、肝臓の線維化や炎症所見も減少していた。CNPの血管機能障害改善作用によるNASH抑制作用が示唆された。
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