研究課題
本研究では、COPDの病態におけるgrowth differentiation factor11(GDF11)とオキシステロールの役割を解明し、肺胞マクロファージにおけるエピゲノム変化を明らかにする研究を遂行している。1. COPDにおけるGDF11の役割について:56名のCOPD患者と31名の健常対照者を研究に組み入れ、血漿中のGDF11について測定したところCOPD群では有意に血漿中のGDF11の産生が低値であり呼吸機能との関連が見られた。同サイズの検証コホートを用いて検討したが同様の結果であった。本研究結果は、Thorax誌に掲載された(Onodera K et al, Thorax 2017; 72: 893-904.)。GDF11はマイオカインの一種であることからCOPDにおける身体活動性との関連について検討している。2.COPDにおけるオキシステロールの役割について:以前の研究で、COPD患者の気道では、オキシステロールの一種である27-hydroxycholesterol (27-OHC)の産生が増加しており、COPDの肺の炎症に関与することを明らかにした。本研究では、オキシステロールが肺構築細胞に作用し、プロスタグランジンや活性窒素種の産生を介して細胞老化を来すことを明らかにした。本研究結果は、英文誌に投稿し受理されている(Hashimoto Y et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2016)。3.COPD肺細胞におけるエピゲノム変化:肺胞マクロファージに着目しエピゲノム変化を明らかにすることを目的に研究を開始した。研究の過程で肺胞マクロファージでは細菌貪食に関わるCD169 (Siglec-1)の発現が低下していることが明らかになったため、現在、CD169の機能解析を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
本研究は現在、概ね順調に推移している。GDF11の研究では、今年度Thorax誌(IF 8.12)に掲載された。現在、COPDの身体活動性とGDF11の関係について検討を行っており、COPD患者の血漿中のGDF11と身体活動性は正の相関を有し、GDF11量は筋力とも相関することが明らかになった。これらの結果は現在、英文誌に投稿中である(in revision)。さらに血漿中のGDF11の産生量と身体活動性の経時的な関係やリハビリテーション後にGDF11が変化するかについても検討している。オキシステロールの研究では、27-OHCの長期曝露によって肺構築細胞が細胞老化を来すことを証明し、すでに英文誌に発表済みである。今後は、オキシステロールの生物活性について炎症の持続、酸化ストレスの観点から明らかにしていく。さらに、オキシステロールと酸化ストレスの相乗作用や自然免疫系に与える影響も検討していく予定である。肺胞マクロファージの研究では、細菌貪食に関わる受容体であるCD169の発現が低下していることを明らかになった。COPD患者のマクロファージでは細菌貪食能が低下していること、感染による増悪がCOPDの予後を左右することから、本分子の機能解析を行うことはCOPDの病態を解明する上で重要と考える。現在、英文誌に投稿するために準備中である。併せて、エピゲノム関連、特にヒストン蛋白のメチル化、アセチル化、ニトロ化を明らかにし、遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにしていく。研究全体の進捗度は、GDF11の研究は予想以上に進捗しており、オキシステロールの研究も当初の研究目標を達成し、英文誌への採択も終了している。エピゲノム変化の研究についてはやや遅れているものの新たな病態関連分子が見つかるなど収穫も多い。以上より、総合的にみると研究は概ね順調に推移しているものと考える。
本研究課題は、次年度が最終年度になる。3つの研究課題のうちGDF11に関する研究では、既に当初の目的は達成され、英文誌(Thorax IF 8.12)に採択されている。現在は、本研究でえられた成果をさらに発展させ、身体活動性との関連を検討し、GDF11と身体活動性の関連を明らかにした。現在、英文誌に投稿しrevision中である。上述したようにさらに研究を進めて、GDF11と身体活動性の関係の経時的変化やリハビリテーションによるGDF11の産生効果について検討を加えているところである。オキシステロールの研究はすでに長期曝露で肺構築細胞が細胞老化を来し、その機序まで明らかにした。今後は、得られた検体を用いて細胞老化を来す酸化ストレスとの関連や自然免疫系との相互作用について検討を行っていく予定である。マクロファージに関するエピゲノム研究は、新たな病態関連分子であるCD169の発現について明らかになったので、今後もCD169の発現を調節した際に、細菌貪食能や炎症性サイトカインの産生が変化するかについて検証する。これらの機能解析の結果と合わせ、英文誌に投稿準備中である。エピゲノム変化に関する研究は、今後、ヒストン蛋白のメチル化、アセチル化、ニトロ化を順次、確認するために、さらに人員を増員し研究の推進を図る予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (25件) (うち国際共著 4件、 査読あり 20件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 4件) 図書 (2件)
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