研究課題
平成29年度における研究計画に沿って3つの方向性で研究を進め、以下の成果を得た。1.線維細胞の血管新生あるいは血管新生阻害薬耐性に対するバイオマーカーあるいは治療標的としての検討:(1)SCIDマウス皮下腫瘍モデルを用いて、ベバシズマブ投与中止後の線維細胞集積動態について検討した。その結果、ベバシズマブにより腫瘍内へ集積した線維細胞は、ベバシズマブ投与中止後数日の経過で減少しベースラインレベルに戻ることが明らかとなった。一方で、血管新生阻害効果は比較的持続することから、ベバシズマブ投与においては投与間隔の調整により耐性化誘導を防ぐことができる可能性が示唆された。(2)ベバシズマブ投与肺がん患者の末梢血中線維細胞の解析では、さらに症例を増やして検討を進めた結果、ほとんどの患者でベバシズマブ治療後に線維細胞数の増加を認めた。2.線維細胞の免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーあるいは治療標的としての検討:ヒト末梢血単球由来の線維細胞とアロCD8陽性T細胞との共培養を用いた検討から、線維細胞はCD8陽性T細胞の増殖刺激作用を有することが明らかとなった。同時に線維細胞の発現する膜表面抗原をフローサイトメトリー法にて検討した結果、線維細胞は多彩な共刺激分子を高発現していることが確認された。3.線維細胞による肺がん細胞のがん幹細胞転化促進メカニズムの解明とその制御法の検討:昨年同定した線維細胞による肺がん細胞の幹細胞化促進因子であるCCL-18、オステオポンチン、plasminogen-activator inhibitor-1に共通のシグナル伝達分子であるAktの阻害薬を用いた検討から、ベバシズマブとAkt阻害薬の併用は線維細胞による肺がん細胞の幹細胞転化を抑制した。さらにSCIDマウスモデルを用いた検討から、ベバシズマブとAkt阻害薬の併用は肺がん細胞の腫瘍形成能を阻害した。
2: おおむね順調に進展している
線維細胞の肺がん進展における役割を、1.血管新生、2.免疫チェックポイント、3.がん幹細胞の3つの角度から検討を進める研究計画となっている。そのため、それぞれの研究ごとに平成29年度の進歩状況を評価した。1.血管新生については、肺がん組織および肺がん患者末梢血における臨床的検討は予定どおり進行している。さらにSCIDマウスモデルを用いた検討から、ベバシズマブ投与における線維細胞の集積と血管新生阻害作用のタイムコースが明らかになりつつある。2.免疫チェックポイントの角度からの検討では、線維細胞によるCD8陽性T細胞活性化効果を発見した。線維細胞の新たな作用について検討が進んでいる。3.肺がん幹細胞化促進作用については、そのメカニズムを同定し、これらの作用を阻害するベバシズマブとの新たな併用療法による抗腫瘍効果の増強を確認した。以上から、研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
引き続き線維細胞の肺がん進展における役割を、1.血管新生、2.免疫チェックポイント、3.がん幹細胞の3つの角度から検討を進める。1.線維細胞の血管新生あるいは血管新生阻害薬耐性に対するバイオマーカーあるいは治療標的としての検討:マウスモデルを用いてベバシズマブの投与スケジュールにおける検討をさらに進め、最適な投与スケジュールを見出す。2.線維細胞の免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーあるいは治療標的としての検討:線維細胞の新たな免疫増強作用を見出したことから、臨床試験で報告されているベバシズマブと免疫チェックポイント阻害薬の併用効果の作用メカニズムとしての視点から線維細胞の役割の解明を進める。同時に線維細胞を直接腫瘍内へ投与することにより免疫チェックポイント阻害薬の効果が増強するか否かについて検討する。3.線維細胞による肺がん細胞のがん幹細胞転化促進メカニズムの解明とその制御法の検討:ヒト肺がん切除組織を用いて、線維細胞の集積と肺がん細胞のがん幹細胞マーカー発現の相関について検討を行う。
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