研究実績の概要 |
私たちの体内では、何らかの外的要因等の影響を受け、プリオンの増殖が制御されているものと考えられるが、その機構は不明である。申請者は、食品添加物等として日常摂取しているセルロース誘導体(CE)が、プリオン病に対して長期間にわたる優れた発病抑制効果を発揮することを発見した。CE効果にはマウス系統差(Tg7[遺伝的背景不明]は高感受性、Tga20[B6背景]は低感受性)があるが、Tg7とTga20ではCEの体内動態に違いは無い。高感受性系統Tg7を低感受性系統B6と交配した2世代目(F2)マウス(HaPrP+/-,MoPrP-/-)のCE感受性試験は、きれいに高感受性群と低感受性群の2群に分離できるため、これらの2世代目以降のマウスを用いてゲノム解析を行い、CE感受性に関わる候補遺伝子を探索した。 F2~F4マウスの作出・選抜を継続し、プリオン感染にてCE効果の判定を行い、全ゲノム関連解析用の検体として高感受性群と低感受性群をあわせて260以上の検体を準備した。これらのマウスでは、あらためてCE感受性に関与する遺伝子がメンデル遺伝様式をしめす単一の因子(又は複数としても主因子は単一)であることが確認された。一方、SNPsアレイによる全ゲノム関連解析に加えてプロテオミクス解析や他のビトロ・ビボ実験解析を総合して、あるグリア関連因子の多型が感受性に関連していることがわかった。このことは、感受性が異なる他の複数の野生型マウス系統においても確認された。そこで、グリア関連因子が目的遺伝子そのものであるかどうかを検討するとともに、この遺伝子の近傍のゲノム領域において目的遺伝子の探索を行っている。まとめると、この3年間の研究で当初の目的であるCE感受性に関連するゲノム領域を絞り込むことに成功した。今後は、さらに解析を進めることで、CE作用機序に関わる遺伝子を同定できる。
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