研究課題
骨芽細胞・脂肪細胞分化の制御に中心的役割を果たす古典的Wntシグナルを介して、骨代謝と脂肪・エネルギー代謝とが密接に連関する可能性がある。そこで骨において力学的負荷などに反応して発現が高まり、Wntシグナル抑制因子の発現抑制を介してWntシグナルを促進し骨芽細胞分化・骨形成を促進するIL-11の脂肪・エネルギー代謝の制御における役割を解明することを目的として以下の研究を進めた。Osteocalcin-Creおよびadiponectin-CreトランスジェニックマウスをIL-11-floxマウスと交配し骨芽細胞および脂肪細胞特異的IL-11欠損マウスを作成し何れの組織由来のIL-11が関与するかについて検討を行った。骨芽細胞特異的IL-11欠損マウスでは全身性IL-11欠損マウスと同様に、骨でのWntシグナル抑制因子の発現が亢進し骨形成低下に基づく骨量減少が認められた。これらのマウスでは血清IL-11濃度も低下し、全身の白色脂肪の数および大きさが何れも増大し脂肪組織量が増加していた。一方、脂肪細胞特異的IL-11欠損マウスでは、骨形成および骨量の低下を認めず、白色脂肪組織量にも変化は認められなかった。以上より、骨由来のIL-11がWntシグナル抑制因子の発現制御を介し骨形成・骨量の維持と共に、全身脂肪組織量の制御にも重要な役割を果たすことが明らかとなった。現在、これらのIL-11作用を媒介する受容体および細胞内情報伝達系の解明を進めている。
2: おおむね順調に進展している
全身性IL-11欠損マウスは当初計画した全ての項目の解析を終えた。この全身性IL-11欠損マウスで見られた骨形成抑制、脂肪蓄積促進が骨組織由来と脂肪組織由来のどちらのIL-11作用によるかを明らかにするため、骨芽細胞特異的および脂肪細胞特異的IL-11欠損マウスを作成した。IL-11 floxマウス (IL-11fl/fl)とosterix-Creマウスとの交配により作成した、骨芽細胞の初期分化段階からIL-11が欠損する骨芽細胞特異的IL-11欠損マウスの作成は平成28年度に完了した。しかしこれらのマウスは発育が悪くIL-11fl/flマウスとの間で骨量や脂肪組織量を比較するのが困難であった。そこでosteocalcin-CreマウスとIL-11fl/flマウスとの交配により、骨芽細胞の後期分化段階から骨細胞においてIL-11発現が欠損するマウスを作成し解析を行った。これらマウスの作成に多大な時間と労力を割いたがH29年度前半には完了し解析を進めた。その結果、骨由来のIL-11が欠失しただけで骨形成抑制および脂肪蓄積の促進が起こることが明らかとなった。IL-11fl/flマウスとadiponectin-Creマウスとの交配による脂肪細胞特異的IL-11欠損マウスもH29年度中に作成が完了し解析を行った。その結果、脂肪細胞でIL-11を欠失させても骨形成低下も脂肪蓄積も起こらないことが示された。以上、動物の作成に時間を要したものの作成されたマウスの解析はほぼ終えており、計画はおおむね順調に進んでいる。
全身性IL-11欠損マウスおよびosteocalcin-Cre;IL-11fl/fl、adiponectin-Cre; IL-11fl/flマウスの解析は計画通り進捗しており、一部の追加実験を除き論文投稿時に改訂に必要な実験を追加するのみとなっている。一方、IL-11欠損で骨形成が低下するという我々の成績とは異なり、IL-11受容体α (IL-11Rα)欠損マウスでは骨吸収が低下するとの報告がSimsらからなされたため、IL-11作用を媒介する受容体および細胞内情報伝達経路について解析する必要が生じた。そこでIL-11Rα、leukemia inhibitory factor受容体 (LIFR)、oncostatin M受容体 (OSMR)などクロストークが報告されているIL-6ファミリーサイトカイン受容体を介するIL-11作用があるか否かを明らかにするため、これらの受容体2つずつの発現をsiRNAにより低下させ一つの受容体のみの発現が主となる3種の骨芽細胞株を作成した。これら3種の骨芽細胞株を用い、IL-11作用後のSTAT-1,3,4,5のリン酸化およびWntシグナル抑制因子とRNAKL発現を検討し、我々が見出したIL-11作用を媒介する受容体およびそれを介するシグナル伝達経路を解明すると共に、それにより骨形成シグナルと骨吸収シグナルのどちらが活性化するかを明らかにする検討を新たに追加し進めている。
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