研究課題
グルココルチコイドによる骨格筋―肝臓―脂肪代謝シグナル軸調節に焦点を当てて体内エネルギー貯蔵分子の選択的利用、すなわちfuel choiceを制御する生理機構を、とくに脂質の動員量を規定する分子機構に焦点をあてて解明し、新しい概念の肥満・生活習慣病治療法を創成することである。1)過食肥満モデルob/obマウスを背景に骨格筋特異的グルココルチコイドレセプター(GR)ノックアウト(obmGRKO)マウスを作製し、7週齢雄の摂食量、腓腹筋湿重量、後腹膜脂肪湿重量、体重、血糖値、耐糖能(ブドウ糖負荷試験)、血中コルチコステロン(CORT)濃度をob/obマウスと比較した。摂食量、血中CORT濃度に有意差はなく、obmGRKOマウスは腓腹筋湿重量(109%)が大きく、後腹膜脂肪湿重量(79%)、体重(93%)が小さかった。随時血糖値(294±25 mg/dl)はob/obマウス(401±31 mg/dl)より低く、空腹時の耐糖能も著明に改善していた。以上から、骨格筋GR機能の抑制は過食による肥満と耐糖能低下の予防に有効であることが示唆された。2)7~8週齢♂の野生型マウス(WT)及びGRmKOに100 ug/ml CORTまたはその溶媒を4週間投与し、3DマイクロX線CTで全身撮影後、副腎・腓腹筋・後腹膜脂肪・肝重量、血糖値、血漿インスリン濃度を測定した。CORT投与による筋重量減少はWTにのみ認められ、WTで見られた高血糖、高インスリン血症、後腹膜脂肪量増加、脂肪肝はGRmKOでは軽微であった。CT解析では、WTではCORT投与で内臓脂肪は腰部優位に、皮下脂肪は頸部・胸部優位に増加していた。クッシング症候群において、骨格筋GRは、クッシング徴候、耐糖能の悪化、脂肪組織・肝臓への脂質蓄積亢進、に関与することが示唆され、これらの代謝異常症に対する新規治療法の標的となりうると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
単純性肥満、クッシング症候群のモデルマウスを用いて、骨格筋GRは、クッシング徴候(中新世肥満)、耐糖能、脂肪組織・肝臓への脂質蓄積、に関与することを初めて明らかにした。本発見は、骨格筋―肝臓―脂肪代謝シグナル軸が個体の対蘇生を規定する重要なシステムであるという私どもの仮説を強く支持するとともに、骨格筋GRがこれらの代謝異常症に対する新規治療法の標的となりうることを示すものである。今後、さらに詳細なメカニズムを追求することによって、既成概念にない新規治療法開発の分子基盤が確立されるものと考える。なお、論文は現在投稿準備中である。以上から、概ね順調に進捗しているとした。
以下の計画1)-3)を実施し、骨格筋からのアラニン放出機構、肝臓のアラニンセンシングからFGF21産生に至る過程を解明して目的を達成する。計画1)骨格筋から血中へのアラニン放出を制御する分子機構解明 ー 骨格筋細胞において、アラニンに結合するタンパク質を、アフィニティービーズ法によって網羅的に精製・同定する。さらに、同定したアラニン結合タンパク質の機能解析と骨格筋遺伝子発現プロファイル情報を統合し、アラニン放出機構を解明する。計画2)血中アラニン濃度のセンシング機構解明 ー アラニンが肝細胞内に輸送され、FGF21 mRNA発現量に影響を与えるまでの過程を詳細に解明する。具体的には、肝細胞内アラニン結合タンパク質を網羅的に同定し、その機能解析を行う。計画3)Fuel choice介入療法のproof of concept確立 ー 以上で明らかにした生理機構を標的とした人為的介入による脂質の優先的な消費を介した肥満・生活習慣病の予防・治療効果を動物モデルにおいて実証する。
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Sci Rep
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
巻: 7 ページ: 39752
10.1038/srep39752
Modern Rheumatology
J Neuromuscul Dis
巻: 3 ページ: 201-207
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/Rheumatol/allergy/research.html