先天性下垂体形成不全は小児下垂体機能低下症の中で比較的頻度が高く重症化しうる疾患であるが、その原因、病態は十分に明らかになっていない。近年疾患iPS細胞を用いた病態解明、創薬は多くの疾患に応用されつつあるが、これまで下垂体疾患についての報告はない。今回、私たちはiPS細胞を用いた下垂体疾患モデルの作成を目指して本研究を行なった。具体的にはエクソーム解析による網羅的な解析に加えて疾患特異的iPS細胞を用いたin vitroモデル樹立および機序の解明に取り組んだ。 下垂体は視床下部との相互作用により口腔外胚葉から発生・分化する。先天性下垂体形成不全は視床下部、下垂体に発現する様々な転写因子などの遺伝子の異常によって引き起こされるが、その詳細な機序は明らかではない点が多い。症例は、生下時より汎下垂体機能低下症を呈した先天性下垂体形成不全の女児、MRIでは下垂体が著明な低形成を呈しており、下垂体ホルモン分泌も著明に低下していた。エクソーム解析によって視床下部・下垂体に発現している転写因子OTX2遺伝子のミスセンス変異が同定された。患者iPS細胞においては in vitroにおける下垂体分化が前葉の前駆組織であるラトケ嚢の段階で停止しホルモン産生細胞に分化せず、患者表現型を再現することが可能であった。さらにその機序として、視床下部のOTX2が増殖因子を介して下垂体分化に必須の転写因子発現を調節していることを明らかにした。さらにOTX2遺伝子ノックアウトiPS細胞が同様の表現型を呈すること、患者iPS細胞におけるOTX2遺伝子変異の修復によって表現型が回復することを示し、同変異が原因であることを証明した (Manuscript in revision)。本研究によって疾患iPS細胞が下垂体疾患に応用可能であることを世界で初めて示し、今後他の下垂体疾患へのさらなる応用を目指している。
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