研究課題
再生不良性貧血におけるクローン性造血のメカニズムを明らかにするため、当初の研究計画に従い、①細胞傷害性T細胞(CTL)からの攻撃を免れて造血を維持している造血幹前駆細胞(HSPC)に何らかのドライバー変異が見られるか、②第6染色体短腕の片親性2倍体によるloss of heterozygosity (6pLOH)の結果生じるハプロタイプ欠失とは別の機序で起こっているHLAクラスIアレル欠失白血球がどの程度存在し、その機序にはどのようなものがあるか、③クローン性造血の発端となるHLA-B4002またはB5401拘束性CTLの標的抗原は何か?、をテーマに検討を進めた。その結果、①HLAクラスIアレル欠失HSPCによるクローン性造血の長期維持にドライバー変異は必要ではないこと(Imi, et al. Blood Advances, in press)、②HLA-B*40:02以外にも、loss of function変異によるクラスIアレル欠失が特定のHLAクラスIに起こっていることから、それらのアレルが特定の自己抗原をT細胞に提示している可能性が高いこと(Zaimoku, et al. Blood 2017)、③HLA-B*54:01は、再生不良性貧血患者のHSPCにおいて、B*40:02に次いで高頻度に欠失しやすいアレルであり、このアレルの欠失は男性患者で特異的にみられること(manuscript in preparation)、④ HLA-B*54:01陽性患者の骨髄で抗原特異的に増殖しているCD8陽性CD137陽性T細胞の単一細胞解析によって同定したT細胞レセプター(TCR)のトランスフェクタントの一部が、同じ患者の野生型HSPCに反応し、HLA-B*54:01欠失HSPCには反応を示さないこと、などが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度までの研究により、以下の点が明らかになった。1.寛解期の再生不良性貧血患者の造血を長期に渡ってクローン性に維持しているHLAクラスIアレル欠失造血幹前駆細胞(HSPC)の多くでは、骨髄異形成症候群でしばしば認められる体細胞変異は認められなかったことから、この幹細胞によるクローン性造血にはいわゆるドライバー変異は不要であると考えられた。2.HLA-B*40:02以外に、単独のクラスIアレル変異によってHLA欠失を来している例があるかどうかを明らかにするため、B40:02を保有しない6pLOH陽性再生不良性貧血43例を対象として、欠失しているハプロタイプのクラスIアレルを次世代シーケンサーで調べたところ、A*02:06、A*31:01、B*40:02、B*40:01、B*54:01の5アレルにinactivating mutationsが同定された。これらのアレルは、B40:02と共に、再生不良性貧血における自己抗原提示に深く関与していると考えられた。3.再生不良性貧血患者549例のうち6pLOHが陽性であった91例(16.6%)を対象として、欠失ハプロタイプに含まれる高頻度アレルを調べたところ、HLA-B*40:02(47%)についで頻度が高いのはB*54:01(12%)であった。このアレル欠失白血球を持つ例のほとんどは男性患者であった。このうち1例では、6pLOHに加えてB*54:01の構造遺伝子変異による単独欠失血球が認められた。4.この患者の骨髄中で抗原特異的に増殖しているT細胞のT細胞レセプター(TCR)を単離し、Jurkat細胞にトランスフェクトしたところ、一部のTCRトランスフェクタントは野生型HSPCを選択的に認識し、B*54:01欠失HSPCには反応しないことが示された。
①エピジェネティックなHLAクラスIアレル欠失機構の解明 HLAクラスIアレル欠失HSPCによるクローン性造血が長期間持続している症例の中で、6pLOH やアレルの構造遺伝子異常だけでは説明できないクラスIアレル欠失のある例が3例同定された。これらの例では、欠失しているHLAクラスIアレルのmRNA発現が見られなかったことから、プロモーター領域のメチル化やクロマチン修飾によってアレル発現が低下している可能性がある。そこでアレル欠失を認める顆粒球を対象として、プロモーター領域のメチル化解析と、クロマチン修飾による発現低下の有無をアタックシーケンシングにより明らかにする。②HLA非欠失血球における造血抑制性サイトカイン受容体シグナル伝達分子の変異検索 昨年度はインターフェロンγ受容体シグナル伝達分子の変異を標的シーケンシングにより解析したが、標的遺伝子数が限られていたためか有意な結果は得られなかった。このため、本年度は、HLAクラスIアレル欠失顆粒球DNAと頬粘膜細胞由来胚細胞DNAをコントロールとして、HLAクラスIアレル非欠失顆粒球の全エクソンシーケンシングを行い、「寛解期の再生不良性貧血患者が免疫抑制剤による維持療法を必要としないのは、造血幹細胞が免疫抑制機序を免れる変異を獲得しているためである」という仮説を検証する。③ HLA-B*40:02とB*54:01が提示している再生不良性貧血の自己抗原の同定 平成28年度から行っているHLA-4002およびHLA-5401が提示するT細胞レセプター(TCR)リガンドを、単一の細胞傷害性T細胞解析により同定したTCRのトランスフェクタントと、iPS細胞由来造血幹細胞のcDNAライブラリーを発現させたCOS細胞を用いることにより同定する。
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