研究課題
本研究は、MLL白血病発症の分子基盤を明らかにすることで新たな分子標的を見出すとともに、これまでに開発されている分子標的薬の効果的な使用法を検討し、エビデンスを示しながら新たな治療法を提案することを目指す。我々はこれまでにMLL-ENLというがん遺伝子産物が白血病を引き起こす上でAF4とDOT1Lという二つの異なる転写活性を持つ因子を介していることを明らかにした。AF4はMLL-ENLによって標的遺伝子上にリクルートされる。MLL-ENLは標的遺伝子に結合するためにはMENINというタンパク質と結合する必要がある。従ってAF4の活性を阻害するために、MENIN-MLL結合阻害剤が利用できる。また、DOT1Lの活性は近年開発されたDOT1Lヒストンメチル化酵素阻害剤を用いて阻害することができる。このような分子基盤の理解から、AF4の活性とDOT1Lの活性を同時に阻害すると高い抗腫瘍効果が得られると考えられた。実際我々は、MLL複合体形成阻害剤やDOT1L酵素活性阻害剤を併用すると強い抗がん活性を発揮することを実験的に示し、将来的にこの2剤の併用療法が有効な治療法となる可能性を持つことを明らかにすることに成功した。この成果は、欧文科学誌に発表された。現在、MLL-ENL以外の白血病において、同様の相乗効果が見られるかどうかを検討している。その結果、いくつかの白血病において同様の高い抗腫瘍効果が見られることがわかった。また、現在、in vivoでこの2剤を投与することで白血病細胞を根絶させる方法の確立に取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
本研究で、(1)MLLキメラが局在するクロマチン環境の可視化、(2)MLLキメラが造血細胞を不死化する分子基盤の解明、(3)MLL白血病細胞を効率的に根絶させる分子標的薬間の協調作用の探索、(4)in vivo白血病モデルにてMLL白血病を治癒させる投薬法の開発の目標を掲げた。前年度までに、MLL-ENLについて(1)は達成できた。また、MLL-ENLとMLL-AF10に関しても(2)はほとんど達成できた。今年度はMLL-AFXなどの別のMLL fusionについて(2)を達成できつつある。(3)については、前年度までにMLL複合体形成阻害剤やDOT1L酵素活性阻害剤の併用療法の有効性を実験的に示すことを達成できた。今年度、異なるコンビネーションを試して見たが、現時点では上述の2薬のコンビネーションがもっとも良いことがわかっている。(4)は現在検討中である。研究は概ね順調に進捗しており、掲げていた目標の多くを達成できた。
MLL-AF4やMLL-ELLなどのMLL fusionを発現する白血病は患者数も多いので、今後これらのがん遺伝子の解析を進める。また、今後はMLL fusionだけでなく、同じようなメカニズムを介してがん化していると思われるがん遺伝子についても検討する。それによって多くのがん遺伝子産物によって共有される「造血細胞を不死化する分子基盤」の解明を試みる。同様の方法論を用いるので特に問題なく研究を進めることができるはずだ。MLL白血病細胞を効率的に根絶させる手法としてはMENIN阻害剤とDOT1L阻害剤の併用がもっとも優れていると思われるので、この組み合わせについてさらに研究を進めて行く。in vivo白血病モデルにてMLL白血病を治癒させる投薬法の開発が薬物動態の良い化合物がまだ開発されていないことがネックになっている。この問題が最も困難であるが、継続して取り組んで行く。今年度も、新たなMENIN阻害剤が開発されてきており、それらを使うことで良い投薬法を見出していきたい。
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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