研究課題/領域番号 |
16H05339
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金倉 譲 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20177489)
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研究分担者 |
横田 貴史 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60403200)
土居 由貴子 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (60722288)
織谷 健司 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (70324762)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / クロマチン構造調節蛋白 / リンパ球分化 / 自己複製能力 / 多分化能力 |
研究実績の概要 |
クロマチン構造を調節し、遺伝子発現を包括的に調節する蛋白質Special AT-rich sequence binding protein-1(SATB1)の造血幹細胞における機能を解析した。まず、血液細胞特異的にSATB1を欠損するSATB1ノックアウトマウスを2系統作成し解析を行ったところ、どちらの系統においても造血幹細胞数が減少しており、またそれらのリンパ球への分化能力が顕著に障害されていた。移植実験を行った結果では、SATB1欠損造血幹細胞の造血再構築能力は低下しており、移植された宿主内での自己複製能力の低下が示唆された。 つぎにSatb1の遺伝子座に蛍光色素蛋白Tomatoをコードする遺伝子のノックインを行い、SATB1の発現を生体内でモニタリングできるマウスの系統を作製した。このマウスは少なくとも1年以上は野生型同胞マウスと同様に成長・発育し、生殖能力も低下しておらず、造血・免疫系にも大きな異常を認めなかった。このマウスを用いて、成獣骨髄の造血幹細胞分画の解析を行ったところ、造血幹細胞分画はSATB1陰性~陽性の不均一な集団であることが分かった。SATB1陰性とSATB1陽性分画をソーティングし、in vitroでの機能解析を行ったところ、後者は高いリンパ球系への分化能力を持つ一方、赤芽球系への分化能力は著減していた。RNA-sequenceによって発現遺伝子の包括的な比較を行った結果でも、SATB1陽性分画において、リンパ球分化関連遺伝子の高発現が確認された。移植実験を行った結果では、SATB1陽性造血幹細胞は高いリンパ球産生能力と同時に高い生着・造血再構築能力を示した。このことからSATB1陽性造血幹細胞は、真性のリンパ球分化指向性造血幹細胞であることが示された。以上の結果から、SATB1が造血幹細胞の正常な機能に必須であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では平成28年度の計画として、まずSATB1の血液系特異的なノックアウトマウスを作製し、造血幹細胞の機能解析を行う計画を立てた。検討は順調に進み、Tie2-cre, Vav-creの2系統のマウスでコンディショナルノックアウトマウスが作製でき、それぞれの系で造血幹細胞の機能解析まで進めることが出来た。また本年度のもう一つの課題としてSATB1の発現を生体内でモニタリングできる実験系を樹立し、造血幹細胞からの分化過程におけるSATB1の発現変化を生理的な状態で評価するという目標を立てた。この目標に関しては、Satb1の遺伝子座に蛍光色素蛋白Tomatoをコードする遺伝子をノックイン下レポーたマウスの作製に成功し、そのマウスを用いて極めて純度の高い造血幹細胞分画をSATB1の発現量に基づいて細分化し、機能解析を行うことが出来た。以上の状況から、本研究は当初の計画通りに研究が進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、SATB1の生理的な機能をより詳細に解析するため、近年報告された生体内での目標蛋白質のビオチン化方法を応用して、SATB1蛋白のN末端にビオチン化領域とFlagタグ領域を付加したノックインマウスを作製する。この方法は、ある特定のペプチド配列を選択的にビオチン化する大腸菌由来ビオチン化酵素BirAと、BirAによって選択的にビオチン化されるペプチドを付加した目的蛋白質の発現を、マウスの生体内で同時に誘導する画期的なものである。すなわち、研究対象の蛋白質が、生体内においてBirAの作用により特異的にビオチン化される。そして、ビオチン-ストレプトアビジンの高親和性特異的結合を用いて、蛋白-蛋白あるいは蛋白-DNAの会合を、より信頼性の高い条件で解析することが可能になる。 作製したビオチン化SATB1マウスから造血幹細胞を分離し、ストレプトアビジンビーズを用い、造血幹細胞の核内においてSATB1と結合している蛋白を同定する。また、抗SATB1抗体を用いた手法では極めて困難な高濃度SDSでの洗浄が可能となるため、夾雑物が少なく信頼性の高いchip-sequence assayを行える。その方法を用いて、造血幹細胞の全ゲノムでSATB1結合DNA配列を網羅的に解析する。次にビオチン化SATB1マウスとSATB1レポーターマウスの交配で得られた個体において、蛍光色素の強度に基づいて造血幹・前駆細胞を層別化し、それぞれの細胞集団におけるSATB1の共役蛋白や標的遺伝子を解析する。
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