研究課題
常染色体劣性遺伝を示す自己免疫性多腺性内分泌症I型(autoimmune polyendocrinopathy-candidiasis-ectodermal dystrophy:APECED)の原因遺伝子AIREは、胸腺髄質上皮細胞 (medullary thymic epithelial cell:mTEC)、および一部の骨髄由来の抗原提示細胞に発現する転写調節因子で、自己寛容の成立機構に必須の役割を担う。したがって申請書は、mTEC を含む抗原提示細胞においてAIREの発現を増強させれば、AIREの免疫寛容誘導作用によって自己免疫病態を改善できる可能性があると考えた。しかしながらこの予測とは全く逆に、MHC class IIプロモーター下にAIREを発現するトランスジェニックマウス(AIRE-Tg)を作製したところ、驚くべきことにヒトの多発性筋炎(polymyositis:以下、PMと略す)と酷似する病気を発症した。 本研究では抗原提示細胞におけるAIREの過剰発現が、どのようなメカニズムによって逆説的に自己免疫病態を引き起こしたかを明らかにし、それによってAIREの本質的な機能を解明する。さらに本知見に基づいて、実はPMをはじめとするヒトの自己免疫疾患においても、AIREの過剰発現が、その原因となっているという大胆な仮説を検証する基盤を構築する。すなわち、本研究はAIREの発現増強、場合によってはAIREのgain of functionによって自己免疫疾患が発生するという驚くべき可能性を提起しており、実際の自己免疫症例でそうした病態の存在を確認出来れば、AIREによる新たなHuman Immunology分野の創出につながり、医学・医療上のインパクは極めて大きいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウスの作製と解析は当初の予定通りに進行している。引き続き、その病態解析へと進める予定である。
自己免疫性多腺性内分泌症I型(APECED)はAIREの機能喪失(loss of function)によって引き起こされるが、最近、AIREの散発性のdominant-negative変異が悪性貧血や白斑症などの自己免疫疾患の原因になることが明らかになった。私どもはAIREが自己寛容の成立にはたらくことを ふまえ、その発現増強が自己免疫病態の改善をもたらすか否かを検討する目的で、NODマウスにおいて、MHC class IIプロモーターを用いてヒトAIREを過剰発現するトランスジェニックマウス (AIRE-Tg)を樹立した。導入遺伝子の発現レベルを上げるため、得られたAIRE-Tgについて導入遺伝子をホモで保有する個体(Tg/Tg)を取得したところ、全ての個体が体重減少を示し、生後約15週までに死亡した。病理学的解析により、全身の骨格筋と心筋に著明な炎症細胞浸潤を認め、ヒト多発性筋炎に酷似する病理組織所見を得た。さらに、血清中には骨格筋や心筋に対する自己抗体を検出した。この形質は複数のAIRE-Tgラインにおいて認められた。つまり、AIREの過剰発現が逆説的に自己免疫をもたらすという、きわめて意外な結果を得ている。今後はそのメカニズムの解明に取り組む実験を計画している。
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J. Exp. Med.
巻: 213 ページ: 1441-1458
10.1084/jem.20151780
http://www.tokushima-u.ac.jp/ier/autoimmunity/