研究課題/領域番号 |
16H05346
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
児玉 栄一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (50271151)
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研究分担者 |
大島 吉輝 東北大学, 薬学研究科, 教授 (00111302)
浅井 禎吾 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60572310)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感染症 / ウイルス / 薬学 / 化学合成 / 天然物 |
研究実績の概要 |
本研究ではエピゲノム制御剤を用いて植物・微生物の休眠遺伝子を覚醒させることにより生物活性が高い化合物を効率よく創出し、さらに我々が確立した革新的スクリーニング法を駆使することによって、これまでの薬剤とは一線を画す新たな作用機序をもつ化合物ヒットを網羅的に探索することを目的としている。 平成29年度は、これまでの研究を継続し、スクリーニング源としての新規天然化合物の創出を行った。天然資源の抽出物に対して直接、化合物の分子骨格を変化させる反応を行うことで得られる多様性拡大抽出物から得られる化合物を単離し、昨年同様に構造決定を行った。ビャクジュツ・ウコン・コウブシといった薬用植物の多様性拡大抽出物から,新規分子骨格を有した化合物 12種を同定した.また植物ホルモンを利用して糸状菌の休眠遺伝子の活性化も試みた。その結果、サイトカイニン類がArthrinium sacchariのポリケタイド生産を活性化することを見出した。また、新規に化学合成した薬剤も収集し、化合物ライブラリー化を行った。一部は既存の誘導体も購入し、その構造活性相関も検討した。 これら収集した化合物を検討したところ、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス活性は見出されなかったが、その一部に抗ガン活性・抗白血病活性があることを見出した。ヘルペスウイルスやアデノウイルスによる角・結膜炎に対するin vitroアッセイ系はこれまで開発されていなかったが、平成28年度にヘルペス角膜炎のモデルを確立したことに続き、アデノウイルスについても構築し得た。HIVについては耐性ウイルスを抑制しうる核酸誘導体を複数見出し、その作用機序や多剤耐性株への効果を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は天然物を分離・精製するだけではなく、構造を決定し、その新規性を確認している化合物を50以上取得することができた。また化合物の構造が確認できたことから、それを中間体として合成展開した。 化学合成された既存のepigenetic modulatorに加えて植物ホルモンを使用しても新規天然物が合成誘導されることは新規の知見であり、事実、この一群の天然物から抗白血病効果を有するものを同定している。 抗ウイルス効果では、化学合成した核酸誘導体の中に1st lineで臨床使用されるemtricitabine耐性を示すM184V変異を有する耐性HIV株に対して野生株同様の強い活性を有する一群の化合物を見出した。ウイルス逆転写酵素の機能解析の糸口をつかむchemical biology toolを同定できた。これら新規核酸を、我々が同定し、現在米国メルク社で臨床開発されている薬剤EFdA/MK-8591との比較検討を行っている。また、失明という臨床的にも大きな問題になるヘルペス角膜炎のin vitroモデルとしてヒト角膜細胞株を用いて確立した。この方法はMTT色素法によって簡便かつ迅速に抗ヘルペス効果を再現性よく検討することができた。既存薬を検討したところ、通常の培養細胞とは異なる活性を示す薬剤を同定することができた。この角膜細胞株を用いて、同様の疾患を引き起こすアデノウイルスに応用し、その角膜炎モデルを構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28、29年度の成果を踏まえて、継続して新規天然物の分離・同定・構造展開を行い、代表的なウイルスとがん細胞に対する生物活性スクリーニングを実施、併せてこれまで単離した化合物の他の微生物への活性と作用点を検討する。スクリーニングする微生物を多様化し、より広範囲に効果を示す天然物を同定する。構造活性相関や分子間結合能を検討すると同時に特異性・安全性をin vitroで明らかとし、前臨床試験に持ち込める化合物を創出するために以下の研究を行う。 天然物の単離源である植物・微生物の選定:薬用植物や糸状菌を主とする新たな微生物を分離し、これらをepigenetic modulator存在ストレス下で培養し、これまで単離されなかった、もしくは微量の生物活性を含む抽出物を取得する。また、この抽出物に対して直接、分子骨格を変化させた”多様性拡大抽出物”も単離源として用いる。 活性物質の同定と合成展開:生物活性を有していた抽出物からHPLC等で活性物質が含まれる分画を同定、単離し、NMR等の機器分析手段や化学反応により化合物の構造を決定する。この天然物に化学修飾を施し、多様性を持たせた天然化合物を合成し、構造活性相関を検討する。特に最終年度である本年は、本課題で同定した化合物を東北大学化合物ライブラリーに登録し、その活性を他の研究者が利用できるように整備する。 新規抗ウイルス剤・抗がん剤の開発:Time of addition実験、既存の薬剤耐性株への交差耐性から作用機序を解明し、臨床薬開発に結び付く知見を得る。耐性誘導を行い、変異から作用部位を同定する。継続して抗ウイルス活性と併せて抗ガン効果を検討し、抗ウイルス剤、抗がん剤への応用を視野に入れ、肝細胞などを用いたin vitro安全性試験を開始する。失明の原因となる角膜感染症の治療薬候補を見出す。
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