研究実績の概要 |
STAT1のcoiled-coilドメイン(CCD)、DNA結合ドメイン(DBD)に存在する342のアミノ酸に対して網羅的にアラニン置換体を作製し、個々のアラニン置換体に対してIFN-γ刺激に伴うIRF-1転写活性化能を測定することで、STAT1変異の機能変化を高精度に予測するデータベースの作成に成功した(Kagawa R, et al. JACI, 2016)。作成したデータベースを用いて既知のSTAT1変異を検討したところ、LOF変異との一致率は100%、GOF変異との一致率は78.1%であった。この結果は、変異のタンパクへの影響を推測する従来のコンピューターアルゴリズムと比較しても格段に良好な結果と考えられた。STAT1はその活性状態により2つの二量体(antiparallel dimer: 不活性型, parallel dimer: 活性型)を呈することが知られている。本研究により、機能獲得型のアラニン置換体がantiparallel dimerの二量体接合面に集中して存在していることが判明し、antiparallel dimerの形成を障害する変異は機能獲得型変異になることを明らかとした。さらに、MSMD家系例の解析により、CCDに存在する新規ヘテロ接合性変異(E157K)を同定し、詳細な機能解析によりE157K変異がantiparallel dimerを安定化することで機能喪失型変異になることを証明した。以上のことより、antiparallel dimerを安定化する変異が機能喪失型変異に、不安定化させる変異が機能獲得型変異になることを提唱した。 他にも、CMCDの姉弟例のエクソーム配列解析を用いた検討で、IL-17Rα欠損症を同定し、病態解析を行い論文報告している(Levy R, Okada S, et al. Proc Natl Acad Sci USA, 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、以下に示す4つの課題を提示し、研究に取り組んだ。i) iPS細胞を用いた, STAT1-GOF変異を持つCMCD患者の治療標的分子の探索, ii) STAT1-GOF変異によりTh17細胞が減少するメカニズムの解明, iii) 変異によるSTAT1機能亢進の背景にある脱リン酸化障害の分子基盤の解明 iv) CMCD患者における新規疾患責任遺伝子の同定 これらのうち、iii)は網羅的アラニン変異体を使った解析を行い、脱リン酸化障害の原因としてantipalrallel dimerの形成障害を提唱し論文化に至った。iv)としてCMCDの原因遺伝子としてIL17RA異常症(過去に1家系のみが報告されていた)の同定に成功し、海外の研究施設との共同研究で、本症の病態解析を行い論文報告に至った。ii)についても研究が進んでおり、現在論文作成中である。iPS細胞の作製に難航している点はあるものの、研究計画は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
i) STAT1-GOF変異を有する患者における治療標的分子の探索:STAT1-GOF変異を有する患者では, IFN-γ刺激に伴うGAS(gamma-activated sequence)転写活性が亢進しており, その特徴を利用して治療標的分子の探索を行う。GAS配列をプロモーター領域に持つIRF1遺伝子の発現をMS2-tag法により可視化し, 治療標的分子の探索に利用する。具体的には, 患者由来iPS細胞と, CRISPR/Cas9で変異STAT1を修復した患者由来iPS細胞を対象に, IRF1遺伝子発現の可視化を試みる。上記実験を行っていくための準備として、IRF1遺伝子発現を可視化できるiPS細胞の樹立を試みる。IRF1 reporter配列は、網羅的アラニン置換体で得られた配列を用いる。 ii) STAT1-GOF変異によりCMCDが発症するメカニズムの解明:健常者, 患者末梢血由来ナイーブT細胞を純化し, Th17細胞への分化を検討する。さらにTh17分化に対するIFN-γ, IFN-α/β, IL-27刺激の影響, 抗IFN-γ, 抗IFN-α/β, 抗IL-27中和抗体, JAK2阻害薬の効果を検討する。 iii) 既存の責任遺伝子に異常を認めないCMCD患者における新規疾患責任遺伝子の同定:既存の責任遺伝子に異常を認めないCMCD患者を対象に, 次世代シークエンサーを用いたエクソーム配列解析を行い, 新規責任遺伝子の同定を試みる。新規責任遺伝子の同定を介して, カンジダに対する粘膜免疫のメカニズムを明らかとする。
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