研究課題
胎児期に存在する動脈管は出生後には速やかに閉鎖するが、早産児では出生後の動脈管開存症が生命予後を悪化させ、ある種の先天性心疾患では出生後にも動脈管の開存が必要である。つまり、動脈管の閉鎖と開存の制御は小児医療上極めて重要な課題である。動脈管の完全な閉鎖には、胎生中期から始まる解剖学的リモデリングである内膜肥厚が重要な役割を果たす。しかしながら現在の治療では内膜肥厚形成を制御することができておらず、十分な効果が得られていない。本研究では、動脈管の閉鎖に必要な内膜肥厚形成の分子機序を解明し、内膜肥厚形成の制御に基づく新たなアプローチによる動脈管の治療法の開発を行うことを目的とした。先行研究でヒトとラット動脈管を用いて網羅的遺伝子解析を行い、内膜肥厚を誘導する最も有力な候補遺伝子として組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA またはPLAT)とファイブリン1(FBLN1)の2つを同定した。これを受けて本年度は以下について実験を行い結果を得た。①ヒト動脈管を用いたPLAT とFBLN1 の局在の検討:ヒトの動脈管組織を用いた免疫組織染色によりPLAT, FBLN1 がヒトの動脈管内膜肥厚部に局在することが明らかとなった。②ラット動脈管組織を用いた発達段階でのPLAT とFBLN1 の発現検討を行い、PLATとFBLN1は胎生19日の未熟児ラットでも発現が認められ、胎生後期に向けて発現が増加することが明らかとなった。③PLAT とFBLN1 それぞれの分泌を担当する細胞の同定を行い、PLATは内皮細胞、FBLN1は平滑筋細胞から分泌されることがわかった。④PLAT がプロテアーゼ活性に与える作用をザイモグラフィーで検討し、MMP-2活性を増加させることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ラット動脈管平滑筋細胞と内皮細胞を用いた検討より、当初の予定通りPLATとFBLN1の分泌担当細胞を同定し、PLAT が内皮細胞で多く発現することが明らかとなったため、ラット動脈管内皮細胞を用いて、PLATによるMMP2活性の増加が確認できた。また、ヒトとラットの動脈管組織切片を用いた検討から、それぞれが内膜肥厚部分に発現し、発達とともにその発現が増加することが確認できた。実験は予定通り行い結果を得ることができた。
本年度の検討結果を元に、次年度はin vitroでのFBLN1 の内膜肥厚作用への検討を行う予定である。FBLN1がEP4 の下流シグナルにより発現が誘導される機序と、FBLN1 が動脈管平滑筋の遊走能を亢進させるかを検討することを目的とする。これらの結果よりFBLN1 が動脈管内膜肥厚を亢進させる可能性を示唆できることが期待される。具体的には、①PLAT がMMP-2活性に与える作用の検討、②EP4 の下流シグナルがFBLN1 の転写を亢進させる機序の検討、③FBLN1 がADAMTS-1 と共役して動脈管平滑筋細胞の遊走を亢進させるかを検討することを予定している。
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http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~seiri1/