研究課題/領域番号 |
16H05359
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山岸 敬幸 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40255500)
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研究分担者 |
土橋 隆俊 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 医師(非常勤) (10286528)
内田 敬子 慶應義塾大学, 保健管理センター(日吉), 講師 (50286522)
家田 真樹 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70296557)
湯浅 慎介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90398628)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 遺伝子 / 循環器 / 発現制御 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した研究の目的に基づき、先天性心臓流出路異常モデル動物であるTbx1発現低下マウスにおいて、環境・epigenetic因子の作用により心血管疾患の表現型が変化する様子を観察するために、Tbx1発現低下マウスの心血管表現型を改めて詳細に病型を診断し、総動脈幹症の中でもVan Praagh A1~A4型のうちA2型であることを明らかにした。さらに、普通餌と葉酸過剰餌で妊娠母マウスを飼育した場合のTbx1発現低下マウスの総動脈幹症の表現型を比較検討した結果、普通餌ではA2型が100%に対し、葉酸餌では約60%でA1型に表現型が変化することを明らかにした。A2型は肺動脈主幹部が形成されないのに対し、A1型は肺動脈主幹部が形成される病型であり、葉酸により、心臓流出路異常の重症度として、表現型の軽症化したと考えられた。流出路の中隔を形成する間葉系細胞の数を比較したところ、普通餌Tbx1発現低下マウス胎仔では野生型に比して細胞数が減少するが、葉酸餌マウス胎仔では細胞数が改善しており、間葉系細胞の発生障害が葉酸により救済されたため、心臓流出路異常の表現型が軽症化したことが示唆された。また、Tbx4の肺血管発生における機能解析について、酵素法で肺分散細胞を得て接着法で間葉系細胞を抽出し、間葉系マーカーを用いて95%以上の効率で分離できる実験系を確立した。Tbx4の発現ピークに合わせて、胎生13日に採取して24時間培養した肺間葉系細胞において、再現性よくTbx4をノックダウン(KD)するRNAiの条件が確立し、血管内皮分化マーカーの発現が有意に低下、未分化幹細胞マーカーの発現が上昇していた。さらに実験系で、細胞外基質上にTbx4をKDした肺間葉系細胞で血管新生・管腔形成能を解析した結果、血管新生能が亢進していた。Tbx4は肺間葉系細胞の未分化維持に機能する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績概要に記載した結果より、研究目的の1つであるTbx1とepigenetic因子による心疾患表現型の検討については、Tbx1発現低下マウスにおいて、環境・epigenetic因子の作用による心血管疾患の表現型の変化を詳細に解析・解明するシステムを確立することができ、次年度以降、葉酸を1つの候補として、心疾患表現型を変化させる複数の環境・epigenetic因子を特定し、その分子機構を解明するための研究に発展させるための進捗状況は良好である。また、Tbx4とTbx1による肺血管発生および異常の検討については、培養細胞系を用いたTbx4の機能解析系が確立し、in vitroの解析が良好に進捗し、次年度以降のin vivoの検討につなげるための基礎データを得ることができている。Tbx20とTbx1による心疾患表現型の検討についても、Tbx1の心疾患表現型の詳細な解析は、上記研究実績概要通り良好に進捗した。一方、Tbx20遺伝子改変マウスについては、樹立に着手したものの、まだ解析には至っておらず、この点においては進捗が遅れているが、以上、全体的には概ね計画書に沿った達成度と考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に得られた成果をさらに発展させるために、今後、Tbx1の発現および心臓表現型を修飾するepigenetic因子の特定を試みる。未知の因子を確実に特定するために、以下のアプローチを検討する:1) 正常餌および葉酸餌Tbx1発現低下マウス胎仔の遺伝子発現プロファイルを比較検討する。正常餌マウス胎仔で上昇・低下し、葉酸餌マウス胎仔で正常化する遺伝子pathwayを特定する。この遺伝子pathwayに関わる因子の上流CpG islandのDNAメチル化の変化を網羅的に解析し、epigenetic因子を明らかにする。2) Tbx1の発現調節領域にレポーター遺伝子を連結して心筋分化能を有するES/iPS細胞株に導入し、Tbx1の発現に影響を与える因子を網羅的にスクリーニングする実験系を構築し、Tbx1の発現を上昇させる因子を特定する。上記1)、2)の両方ないしいずれかで特定された候補因子を、Tbx1発現低下妊娠母マウスに投与し、胎仔の心血管疾患表現型の変化を解析する。候補因子により心血管疾患表現型が軽症化すれば、将来ヒト心疾患を軽症化する治療法の実現につながる可能性がある。Tbx4による肺血管発生および異常の検討ついては、肺間葉系組織特異的Tbx4変異マウスを作製し、Tbx4の肺血管発生における機能をin vivoで解析する。その後、Tbx1とTbx4との相互作用の解析に発展させるため、Tbx1とTbx4の遺伝子改変マウスを交配し、Tbx1/Tbx4ダブル変異マウスの肺血管表現型を解析につなげる。さらにTbx20とTbx1による心疾患表現型の検討については、Tbx20遺伝子変異マウスの樹立・解析から、Tbx20とTbx1の遺伝子異常の組合せにより心血管疾患の表現型が変化することを明らかにするための解析系を推進する。
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