研究課題
下痢症関連ウイルスの検出率をさらに高めるため、これまでのmonoplex/multiplex PCRに加えサリウイルス、ロサウイルス、ブファウイルスを検出するセットを構築した。これで17種のウイルスが検出できる。2015-2016年は464下痢便検体中、ウイルス陽性84%、ロタウイルス28%、ノロウイルスGII 64%、サポウイルス4%、アデノウイルス7%、アストロウイルス3%、エンテロウイルス5%、ヒトパレコウイルス11%、その他が見られた。新しくサリウイルスが1%に検出された。100%を超えるのは重複感染を示し、特にロタウイルスとノロウイルスによる。ロタウイルスはG2が多いが他にG1とG9が多い地域があった。G2P[4]においてはP[4]の抗原領域に1つのアミノ酸の置換があった。またロタウイルスワクチン接種児が同時に野生株に罹患している例や、ワクチン未接種下痢症児にワクチン株が検出された。さらにワクチン株が体内で変異を起こしていた。ノロウイルスGIIはGII.4シドニー株が多いがGII.3やGII.6、GII.17も見られた。2016年初冬に、カプシド領域がGII.2で、ポリメラーゼ領域はGII.16またはGII.17の新たなリコンビナント株の流行が見られた。このGII.2の市販のイムノクロマトキットでの検出率は良好であった。サポウイルスの新しいイムノクロマトキットはGIだけでなくGIVにも反応したが、GIIには反応しなかった。ノロウイルス感染を繰り返す新たな成人1例を経験し、長期間にわたる便中、血清中の抗体価の変動を調べた。感染した遺伝子型に対する抗体とは別の型(未感染でも)の抗体価も上昇し交差免疫が見られた。マウスでノロウイルスGII.4とロタウイルスワクチン株の経鼻接種実験を行なったが抗体の上昇は見られなかった。皮下接種では各々に対し抗体価は上昇した。
2: おおむね順調に進展している
わが国の小児下痢便から下痢症ウイルスの検出と遺伝子型、変異株の検出を行い、それぞれのウイルスについて結果が出た。ノロウイルスについては詳細に解析ができ、先駆けて報告することができた。ロタウイルスに関してはワクチンとの関連で示唆に富む結果を得た。サリウイルスの検出は本邦初である。市販のノロウイルスのイムノクロマトキットの評価をした。ノロウイルスGII.17に対しては感度が低いため改良が必要だが20016年冬季流行のGII.2に対してはこれまでの流行株であるGII.4と同等であった。新しく開発中のサポウイルス、アストロウイルスのキットについては29年度に進める必要がある。ノロウイルス、ロタウイルスの経鼻接種は抗体の上昇が見られず、ウイルス量や鼻での保持についてもう少し工夫が必要である。皮下接種ではそれぞれ抗体の上昇を認めるので、2回接種などさらに免疫を高める研究を29年度以降に入れる。人工的に作製したロタウイルスVP6の蛋白量が少なかったためこれを用いたロタウイルスの抗体の測定やワクチン接種ができなかった。感染者の血清、便中のロタウイルス、ノロウイルス遺伝子型別の抗体価の変動を調べる方法を確立した。感染時のノロウイルス遺伝子型以外の遺伝子型にも変動を示した。ワクチン接種者、およびワクチン接種マウスにおいても同様に調べることができた。平成28年度は、リコンビナント ノロウイルスGII.2が流行し、その解析のため時間がかかった。計画に書いたすべての研究に着手することができたが、結果がその途上であるものが見られた。
引き続き、わが国の小児下痢便から下痢症ウイルスの検出と遺伝子型、変異株の検出を行う。ノロウイルス,ロタウイルスと同様に特にアデノウイルス、サポウイルス、アストロウイルスに関して遺伝子型の変異を調べる。また引き続きロタウイルス感染者にワクチン株の感染を示す例があるか、ロタウイルスワクチンによる重篤な副反応が見られるか調査する。現在開発中のサポウイルスのイムノクロマトキットがGI、GIVに反応することがわかったがGIIを含め様々な遺伝子型にも反応するか調べる。アストロウイルスのイムノクロマトキットに関しては細胞培養、人工的なウイルス粒子の両面から抗体を作製する。そして我々が有する遺伝子型の糞便材料との反応を調べる。さらにロタウイルス・アデノウイルスに関してもイムノクロマト法で遺伝子型別の検出率と、ウイルス量との関係を調べる。マウスを用いてロタウイルス、ノロウイルスの同時接種(および混合)ワクチンによる抗体上昇を種々の接種方法で引き続き調べる。2回接種および追加接種なども考えて長期間観察する。これまでの研究協力者以外に専門的知識と技術を有する協力者にも動物実験を手伝ってもらう。ブタを用いた実験は設備の面で行わない。もし行う場合は海外の施設の利用を考える。昨年度,海外でヒトノロウイルスの細胞培養成功の発表があった。その報告では、ヒトの腸管細胞から腸管幹細胞を分離し実験を行っており、株化細胞では成功していない。この方法は非常に困難であり、現時点では人力を割くのは保留したい。そこで代用ウイルスを用いて抗ノロウイルス薬や抗ロタウイルス薬の研究を進める。すでに天然物質にその作用を見出している。再現性を確認後、構成成分に分けて作用物質を明かにしたい。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 8件、 査読あり 14件、 謝辞記載あり 12件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 6件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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