研究課題
下痢症関連ウイルスを継続的に総括的にRT-PCRで検出できる方法を用いて、2016年7月から2017年6月の間で461検体を調べた。461検体中、360検体(78%)でウイルスを見出した。360検体中ロタウイルス(24%)、ノロウイルスGII(59%)、サポウイルス(9%)、アデノウイルス(8%)、アストロウイルス(7%)、エンテロウイルス(9%)、ヒトパレコウイルス(15%)で見られた。ロタウイルスはG8P[8]I2が、ノロウイルスGIIはリコンビナントGII.2、GII.4シドニー株が多く見られた。ヒトパレコウイルスは1,4型が見られた。今回、タイ国のみならず、ベトナムやバングラデシュの小児の検体で解析ができ、わが国よりもロタウイルスの頻度が多いことがわかった。ワクチンとの関連では、ワクチン株が非接種者の胃腸炎で見られること、ワクチンを接種していない比較的年齢が高い幼児、学童のロタウイルス胃腸炎の割合が多くなったこと、ロタウイルスG8P[8]に対してもワクチンは有効ではある、重症例を少なくするにはワクチンが有益であることが示された。ワクチンの開発ではノロウイルスをVLPのみならず乳酸菌での発現を試みた。またロタウイルスの11本のゲノムを自由に取り換えて感染性粒子を作り、ワクチン開発に応用することを進める機会を得た。ロタウイルスとノロウイルスを同時に検出するキットの評価をベトナム、タイ、バングラデシュで行い良い評価を得た。ロタウイルス、ノロウイルスなどの入院症例での血液、髄液、便から検出する機会を得た。現時点では環境中でのロタウイルスワクチン株は検出できなかった。G3P[3]などの新規なロタウイルスを見出したが、流行までにならなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
ウイルス性下痢症の分子疫学は、ロタウイルスG8P[8]の流行やノロウイルスGII.4_Sydney, GII.2, GII17の新しい流行が見られたために新しい進展が見られた。これらの結果を詳細に解析ができ、先駆けて報告をすることができた。ヒトと動物のその他のリアソータント(遺伝子組み換え)ロタウイルスも見出された。ロタウイルスワクチンを接種することによる重症患者の減少が期待できたが、ワクチンを接種してない子どもでのロタウイルス感染症や重症度が続いていることがわかった。ロタウイルスワクチンの有効性の評価を今後とも行う必要性が示された。タイ、ベトナム、バングラデシュの研究者の協力を得て、市販のロタウイルス・ノロウイルスのイムノクロマトの有用性を評価した。また、市販のキットで新奇なロタウイルスやノロウイルスへのイムノクロマトの対応が可能なキットへの改良がなされたことを確認した。サポウイルスのイムノクロマトを作るためGII.2のVLPを作成中である。精製ロタウイルスオデリア株(G4P[8])とノロウイルスGII.4株の成熟マウスへの実験の途中結果が出た。並行して行っている、乳酸菌へのノロウイルス遺伝子の挿入による乳酸菌表面へのノロウイルスの発現に成功した。現在分泌型のノロウイルス蛋白発現を試みている。またReverse Geneticsの手法での人工的ロタウイルスの作製を試みている(AMED小林剛代表)が現在異なるG,P型のウイルスのウイルスが作製できた。新しい方法での不活化ロタウイルス、ノロウイルスワクチン開発を新たに試みた。
前年度に引き続き下痢症ウイルスのスクリーニングを分子疫学的手法を用いて行う。その遺伝子型を決定する。例年にない新奇なウイルスが見出されれば、そのウイルスについて深く流行疫学を調べ、できるだけ早く報告する。ロタウイルスワクチンの有効性について、ロタウイルス胃腸炎児のワクチン接種の既往、ウイルスの遺伝子型、年齢や発症日などの基礎データ、採血がなされれば血清中のロタウイルス抗体価、重症度などの視点から検討する。また入院患者の中の重症度とウイルスの種類・型についても検討する。ロタウイルス、ノロウイルスの不活化混合ワクチンの基礎研究をin vitro, in vivoで続ける。マウスの実験を含む。前年度から続けている培養ロタウイルス(Odelia株)とノロウイルスGII.4(ローズデール株)VLPの2回同時皮下接種接種の結果をまとめる。すなわち血清中のIgAとIgG抗体、便中のIgA抗体である。さらに昨年度から始めた乳酸菌を用いた菌体表面のノロウイルスの発現に続いて、分泌型のノロウイルス発現について検討する。さらにAMEDでの分担者であるリバースジェネッチクス法でのロタウイルスの人工的作製を用いて不活化ワクチンの新しい試みをおこなう。環境と流行疫学の立場から、最近の気候の変動と下痢症ウイルスの流行を実際の発症日とその時の気候との種々の因子を数式モデルに入れ込んで、その関連を探る。世界的なウイルス遺伝子型の流行と関連する気候の因子を探る。臨床の患者の検索を求められた場合ウイルスの立場から原因ウイルスを調べる。さらに最近問題となっている新生児、乳児期のエンテロウイルス、パレコウイルスなどのピコルナウイルス科のウイルスの疫学をさらに深く検査する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 15件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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