研究課題
NR1D1(Nuclear receptor subfamily1, group D, member1;REV-ERBa)は時計遺伝子として機能する核内受容体の一つである。核内受容体とは、細胞内タンパク質の一種であり、リガンドが結合することで核内に移行し、DNAに直接結合して、細胞核内でのDNA転写を調節する受容体である。発生、発達や代謝などの遺伝子転写に関与している。核内受容体は遺伝子配列を共通して有するA-E領域があり、遺伝子スーパーファミリーを形成している。NR1D1はオーファン核内受容体に属し、ROPE配列に結合して転写を阻害する。NR1D1は概日リズムに関与し、遺伝子欠損マウスでは、恒常条件で短い活動周期を示し、光への反応が変化することが示されている。私どもは、典型的な自閉症様症状を示し、重度の知的障害がある女性患者において、NR1D1に父性遺伝のc.1499G>A(p.R500H)変異を同定した。そこで大脳皮質形成過程に対するNR1D1の病態機能を解析した。子宮内胎仔脳遺伝子導入を用いてNR1D1の発現を抑制した結果、大脳皮質形成の過程で神経細胞の移動が遅れることがわかった。これにRNAi抵抗型の野生型NR1D1を発現させると移動障害は回復したが、変異型NR1D1では回復しなかった。これらの実験により、自閉症様障害に関与するNR1D1は、大脳皮質形成過程の細胞移動において、重要な役割を持つ可能性が示唆された。本研究で得られた結果は、遺伝子異常によるNR1D1の機能障害が自閉症の病態形成に重要な役割を果たすことを示唆する。一方私どもは、NR1D1同様に時計遺伝子として機能するPER3およびTIMELESSについても、自閉症患者において新規遺伝子変異を見出した。これらの蛋白質に対する特異抗体を作成して発現解析を遂行した。
2: おおむね順調に進展している
自閉症で見出された時計遺伝子の変異のうち、NR1D1についてはその分子メカニズム解析を行い、原著論文として発表できたから。また、PER3についても同様の包括的解析を完了し、論文投稿ができる状態になった。一方、TIMELESSについては特異抗体を作成して神経組織における形態解析を行い、原著論文として発表できた。これらの状況から、概ね順調に研究は進展していると考えている。
TIMELESSの遺伝子変異についてさらに分子細胞生物学的解析を進め、時計遺伝子が大脳皮質形成障害を引き起こす分子メカニズムを解明したい。さらに、メラトニン受容体も概日リズムに重要な機能を果たすが、私どもはこの遺伝子にも自閉症病態に関連する変異を見出している。そこで、メラトニン受容体の変異体解析も進めてゆきたい。
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